26
Side 飛鳥
ナオ君の言った通り、マンションから少し歩いたところに公園があって、俺たちはそこのベンチに腰を下ろした。
空はうっすら紫がかっていて、もうすぐ夜が明けることを訴えている。
俺は慶太の顔を見れなくて、思わず顔を俯けた。
すると、未だつないだままだった手が視界に入って、なんだか切ない気持ちになった。
―――俺達は、手をつないだことさえなかったな……
今更になって、その事実に気付いた。
たくさん抱きしめてもらって。たくさん元気をもらっていたけど。
本当に、俺は慶太に何か返せていたのだろうか?
ただただ好きだと思うばかりで。
こんなふうに、体温を分かち合えるような関係ではなかったように思う。
―――それじゃ、嫌われてても当然かな…
「――――そういえば、先輩と手をつなぐの初めてだね」
「……そ、そう、だね」
そんな風に考えていると、俺の気持ちを受け取ったかのように慶太が呟く。
そうして、俺の存在を確認するように、再び手をギュッと握られた。
「未だに夢みたいなんだ、先輩にあえて…」
「無理しなくていいってば」
「無理してないって」
慶太はそういうと、俺をギュッと抱き寄せてきた。突然のことで倒れ込むように慶太の方にもたれてしまい、俺は恥ずかしくて顔を赤くする。
「―――俺はずっと、先輩が好きだったよ。今だって、また先輩に会えたことが夢みたいで、ドキドキしてる」
「え――――」
言われた言葉とともに、慶太の胸に顔をうずめられる。
耳を澄まさなくても聞こえてくる、激しい心音。自分のものではない、他人の体温。
俺をずっと、支えてくれていた――
「俺は、あの頃からずっと、先輩に笑っていて欲しかった。だから、いろんな人に先輩の魅力を知ってほしくて、クラスのヤツとかに声をかけたんだ。―――結果として、先輩を傷つけてしまったけど」
「―――でも、慶太だって」
「あのときは、嫉妬で酷いことを言ってしまいました。自分が正しいと思ってしてきたことが、先輩を傷つけて。自己嫌悪で死にそうでした」
[ 108/140 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
TOP