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「ナオ君…辛かったね」
「………セリさん、ずるいよ…っ」
ナオ君はそういうと、俺の腕の中で崩れ落ちた。ナオくんは俺より小さいものの、あまり身長差のない身体を受け止めきれずに俺たちはずるずると床に座り込む。
「俺、もう、慶太と一緒にいられないのかな。…あの人の面影のない俺は、もう価値がないのかな?」
「慶太はそんなこと言わないよ」
「言わなくても思ってるかもしれないじゃないですか!どうしよう、友達でいることすら、叶わなくなっちゃったら……っ」
ナオ君は、相当思いつめているようだった。目から溢れる涙をぬぐいもせずに、ひたすらに俺の胸に縋りついてくる。
「…友達でいて、っていったんです。でも、慶太はもう、俺なんてどうでもいいのかもしれない。あの人のところへ行って、もう、俺なんて見てくれないのかもしれない。―――代わりなんて嫌だったけど、今は俺自身に魅力がなくて、飽きられてしまうのが怖いんです…」
「ナオ君………」
「どうしよう、背中を押すべきなのに、ためらう自分が居るんです。『行かないで』って思ってしまうんです!自分ばっかり可愛い自分が、大嫌い。―――こんなことばかり考えるずるい俺なんて、いない方がみんな幸せになれるんです!」
「行かないで、って思うのは普通だよ。その人が大事だから、そう思うんだ」
すっかりまるまってしまった背中を撫でながら、俺はナオ君に語りかける。一晩ずっと、暗い部屋で泣きながら考えていたのだ。
後ろ向きな気持ちになってしまうのは仕方ないと思うし、俺だって、何度も考えたことだった。
俺に生きる価値は無いんだ、って。
自分ばかり可愛くて、誰かに迷惑をかけていやしないか。そんな風に生きていくならいっそ、生きることを諦めてしまった方がいいのではないか。
でも、俺自身に生きる価値が見つからなくても、もし俺が大事な誰かの生きる力になれたなら。
これ以上幸せなことはないと思うんだ。
辛いならいくらでも話して。そうして、また元気に笑って見せて。
「俺はずっと、ナオ君の味方だよ。寂しいって、悲しいって言って弱さを見せてくれるの、すごく嬉しい。―――慶太だって、同じだと思う」
1人で生きていける人が強い人ではない、そう柊君が教えてくれた。
そう言われてから、こう思えるようになったのだ。
弱さは隠すべき、そう考えて生きて来たけれど。
―――誰かが味方になってくれたり、誰かの味方になれることは、とてもうれしいんだと、柊君が気づかせてくれた。
助けて、助けられて。
そうやって、『絆』は作られていくのだと、教えてくれたんだ―――
「…もし万が一慶太と気まずくなっても、俺と二人なら数で勝ってるし、勝ちだよ」
「ふふ、多数決ですか…?」
「そうそう」
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