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「ただいま……」

家に帰り、真っ暗な玄関に立つと、俺は緊張の糸が切れたようにその場にへたり込んだ。

ピピピッと初期設定のメール受信音が鳴り、メールが来たことを知らせる。みれば、それはセリさんからだった。

『大丈夫?』
「――――――――っ」

その瞬間浮かんだのは、携帯を投げつけたくなるような衝動だった。

でも、それは実行されることなく、代わりに目から大粒の涙が溢れる。

どうして、セリさんがそんなこというんだ。

恋敵にいわれたって、嫌味にしか聞こえない。誰のせいで、こんなに傷ついていると思っているんだ。

そう思ったのに、急にむなしさが胸をせり上がってきて。

セリさんは、本当にいい人だ。だから、セリさんが嫌味なんて言うはずがない。

大丈夫?って、本当に心配してきてくれたからそういったんだ。

セリさんが嫌な奴で、酷い奴だったなら八つ当たりもできたのに。さっき嫌味でいてほしい、と願ったのは、他でもない自分自身。

そんな醜い自分が、大嫌いだ。

「……ごめん、セリさん…っ、慶太……っ」

携帯を握りしめながら、俺は玄関で泣き続けた。

―――いつかは終わらせる恋だった。

先延ばしにしたところで、いつかこの痛みは俺を襲うのだ。

だけど、楽しかったからこそ。今まで幸せだったからこそ。

「辛いよ……っ」

セリさんに会いたい。でも、会いたくない。

こんな話できるの、セリさんだけなんだ。知り合ってから短いけれど、とても大事な人。

でも、あってしまって、こんなに嫌な自分を知られるのも嫌だ。

セリさんの前では、一番優しい自分でいたい。あの人の自慢の友人でいたいんだ。

好きな人の背中を押したい。だけど、二人がうまくいって、二人の間に入れなくなることを怖がる自分が居る。

俺はどうするべきなんだろう。

「分からないよ…大丈夫じゃない、助けて、セリさん―――っ」

俺はそのまま、ベッドに駆け込むと世界を遮断するように布団にもぐりこんだ。

次の日に声がかれてしまうな、なんて人ごとのように考えて、そんな自分がおかしくって。

乾いた笑いをもらしたついでに、また一つ涙が溢れて、俺は静かに涙を流し続けたのだった――――





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