19
「ただいま……」
家に帰り、真っ暗な玄関に立つと、俺は緊張の糸が切れたようにその場にへたり込んだ。
ピピピッと初期設定のメール受信音が鳴り、メールが来たことを知らせる。みれば、それはセリさんからだった。
『大丈夫?』
「――――――――っ」
その瞬間浮かんだのは、携帯を投げつけたくなるような衝動だった。
でも、それは実行されることなく、代わりに目から大粒の涙が溢れる。
どうして、セリさんがそんなこというんだ。
恋敵にいわれたって、嫌味にしか聞こえない。誰のせいで、こんなに傷ついていると思っているんだ。
そう思ったのに、急にむなしさが胸をせり上がってきて。
セリさんは、本当にいい人だ。だから、セリさんが嫌味なんて言うはずがない。
大丈夫?って、本当に心配してきてくれたからそういったんだ。
セリさんが嫌な奴で、酷い奴だったなら八つ当たりもできたのに。さっき嫌味でいてほしい、と願ったのは、他でもない自分自身。
そんな醜い自分が、大嫌いだ。
「……ごめん、セリさん…っ、慶太……っ」
携帯を握りしめながら、俺は玄関で泣き続けた。
―――いつかは終わらせる恋だった。
先延ばしにしたところで、いつかこの痛みは俺を襲うのだ。
だけど、楽しかったからこそ。今まで幸せだったからこそ。
「辛いよ……っ」
セリさんに会いたい。でも、会いたくない。
こんな話できるの、セリさんだけなんだ。知り合ってから短いけれど、とても大事な人。
でも、あってしまって、こんなに嫌な自分を知られるのも嫌だ。
セリさんの前では、一番優しい自分でいたい。あの人の自慢の友人でいたいんだ。
好きな人の背中を押したい。だけど、二人がうまくいって、二人の間に入れなくなることを怖がる自分が居る。
俺はどうするべきなんだろう。
「分からないよ…大丈夫じゃない、助けて、セリさん―――っ」
俺はそのまま、ベッドに駆け込むと世界を遮断するように布団にもぐりこんだ。
次の日に声がかれてしまうな、なんて人ごとのように考えて、そんな自分がおかしくって。
乾いた笑いをもらしたついでに、また一つ涙が溢れて、俺は静かに涙を流し続けたのだった――――
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