18
ほら、思った通りじゃないか。
こんな恋、しない方がよかったんだ。辛いばかりで、踏ん切りすらもうまくつけられなくて。
俺はその場にしゃがみ込むと、自分を抱きしめるようにして涙を流した。
道の真ん中で、1人涙する俺に、通り過ぎる人は皆不審そうにしていた。だけど、声を他人にわざわざ声をかける人なんておらず。
俺は、世界にただひとりきりで。
「―――――ナオ」
そんなとき、慶太が戻ってきて、俺の上から慶太の声がした。慌てて涙をぬぐうと、慶太を見上げる。
「……やっと、俺を見たね」
慶太の眼は、もう俺の中に『誰か』を探していなかった。見つけたんだ、と他人事のように感じつつも、嬉しさと切なさに押しつぶされる。
やっと、本当に俺を見てくれた。
でも、『誰か』の面影のない俺に、価値はあるの?
「……ナオは、全部分かってたんだよな」
「うん。―――だから、『好き』って言ってくれなかったんでしょ?」
「最低だよな…」
「うん、最低」
慶太は俺の前にしゃがみこむと、とても近くで俺に語りかけてきた。寒い世界の中、二人で身を寄せ合う俺たちは、きっと仲睦まじく映るのだろう。
だけど、俺たちはこれから決別するんだ。
「―――俺、ナオが好きだった。だけど、やっぱり『あの人』の面影を探してた」
「そうだね」
「だから……ずるいけど、もう一度、自分を見つめ直させて欲しい。俺が本当に好きなのは、誰なのか」
「もう、答え出てるじゃん」
俺が呆れたように言うと、慶太は傷ついたような顔になった。俺からそんなことを言われるとは思っていなかったのだろう、多分、罪悪感でいっぱいなんだ。
「慶太が追った人が、好きな人でしょ?俺はいいから、その人を選んで。―――余計な心配しないで。慶太が心から笑ってくれると、俺もうれしいんだ」
『ナオが嬉しいと俺も嬉しいよ』
前に言われて、恥ずかしいけれど胸が切なくなった。人を好きになると、自分の気持ちよりも誰かの気持ちの方が大切にしたくなるのかもしれない。
「ごめんな……」
「いいよ、今まで通りとはいかなくても、友達でいて」
そう言って笑った俺は、多分ちゃんと笑えていたと思う。
慶太が、俺の目じりに光る涙に気づいてさえいなければ。
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