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俺がさらに首を傾げると、ナオくんはさらに続けた。
「…俺、昨日セリさんに声かけて貰えて、本当に嬉しかったんです。だけど………うまく返事が出来なくって」
「あー………」
なるほど。
昨日の無愛想な訳が分かって俺は大きく頷いた。
「…この業界、皆さん綺麗で、キラキラしてて…いつも、『なんでお前みたいなのがいるんだ』って言われるんです。だから、だんだん、ここにいるの申し訳無くなって、上手く、気持ち伝えられなくなって……なんで、神様は不公平なんだって思いはじめたら、止まらなくて」
でも嬉しかったんです、と繰り返しながら肩を震わせるナオくんを、俺はそっと抱き寄せた。
よしよし、と頭を撫でていると、ナオくんの涙がぽろぽろ溢れ始める。
「――俺はナオくん、好きだよ。今日もコーヒーくれて、ちゃんと話してくれたし」
言葉を選びながらそういうと、ナオくんはビックリした顔をしていた。
真っ赤になった鼻にティッシュを差し出しながら、さらに続ける。
「俺もそう思ったことがあるんだ。――でもさ、不公平に作られても、そこから目一杯幸せになって神様見返したら、スッゲー楽しいと思うよ」
ナオくんは、去年までの俺だ。
自信を泣くし、丸まる背中に語りかけたかったのは、今はいない『僕』に向けた言葉でもある。
「セリさんにも、そんなことあるんだ……」
「当たり前。相変わらずファッションセンスないって怒られてるし」
「あはは」
泣き笑いの表情をするナオに、胸が熱くなる。
俺は君に、元気をあげられたのだろうか。
「……ナオくんが笑ってくれると、俺も嬉しいよ」
「はい…あの、またお話して貰えますか?」
「んー、敬語なくして友達になってくれたらいいよ?」
「敬語は癖です……」
「じゃぁしょうがないか」
そういうと、俺達はおかしくって笑い出した。
「じゃあアドレス交換して」
「はい」
涙声で、でもさっきよりも幾分元気な声で、ナオくんは頷いた。
―――初めての友達は、どこかほっとけない、心優しい人だった。
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