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Side ナオ



―――慶太は、好きになってはいけない人だった。


慶太と知り合ったのは偶然だった。

セリさんに会いに行ったらそのままモデルさんたちと食事に出かけることになり、緊張したけれどもとてもいい経験をさせてもらえた。

俺はすっかり緊張してしまい、みんなが話しているのを眺めているだけだったけれど。

いつかは、こんな人たちの写真を撮っていくのだ。

それを、とても誇りに思った。

何気ない日常すらも様になる彼らの、本当の魅力を引き出せる存在でありたい。今はお下がりの一眼レフだけど、いつかは自分の手で。

そんな決意を新たにした日、話しかけてくれたのは慶太だった。

慶太の隣は、心地よかった。緊張してうまくしゃべれない俺の言葉を根気よく聞いてくれて、笑って頷いてくれる。

俺を認めてくれたような気がして、嬉しかった。

その時は、単純に優しさが嬉しくて、連絡先を交換してこれからもあってもらえると思うとドキドキした。

だけど、そのドキドキは長く続かず。

「―――ほら、ナオ。このお菓子食べたいって言ってただろ?買って来たんだ」
「……………」

俺の家に遊びに来た慶太の手には、コンビニのお菓子。

新商品で、とてもうれしいはずなのに。俺は胸が苦しくなった。

「……うん、ありがとう。嬉しい」

慶太は、チョコレートを俺に絶対買わない。

新商品で、『食べてみたい』と言った中にチョコレートはたくさんあった。だけど、慶太が買ってくるのはいつもチョコレート以外のお菓子だった。

「そっか、ナオが嬉しいと俺も嬉しいよ」

本当に心の底から笑えていたかは分からないけれど。

それでも、慶太がそういうなら。

俺はいつまでも『ありがとう』と笑い続けようと思った。でも、絶対に恋はしたりしないと誓った。

慶太は、俺を見てはいない。俺を通して、別の誰かを愛している。

そんな人を愛してしまっては、不毛だ。適度に距離を置いて、これ以上のめり込まない方がいいと、ずっと警鐘が頭の中で鳴り響いていた。





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