12
その感情に名前なんて、つけたくなかった。
ナオと、セリさん。どちらも飛鳥先輩を思い出させた。そして、話すようになって、セリさんにも惹かれている、と気付いた時、俺は苦悩した。
セリさんを選ぶことは、『顔で選んだ』ことに他ならないのではないか。似たような人が居て、顔が綺麗な方に惹かれてしまうのだ。
それは、『顔で選ぶ奴が嫌い』と公言してきた俺を否定する考えで。
そんな風に考えさせられるようになって、ますますセリさんが苦手になった。ナオが好きなのに、どうして俺はこんなに不安なのだろう。
そうして、俺のアンバランスさを自覚したのが、今日だ。
今日は4人で映画を見に行く日だ。
その日に、ナオは髪の毛を明るくして、緩く巻いてきたのだ。
それを見て、最初に浮かんだ感情は――――『違う』だった。
違う――――その先に続く言葉に、俺は絶望した。
違う―――飛鳥先輩は、そんな髪型ではない。
一瞬でも、そんな風に考えてしまった自分の愚かさを呪った。ナオは飛鳥先輩ではないのだから、茶髪でもいいではないか。
「すげー、染めたの?」
そんな自分を取り繕うように、俺はナオを褒めた。ナオも嬉しそうにしてくれていて、それからたわいない話をしたりして、楽しく過ごせていた。
だけど。
「―――不細工過ぎて有名な奴もいたけどな」
ヒイラギ先輩が、飛鳥先輩を思い出させるような言葉を平然と吐き。狙い澄ましたようなその言葉に、俺はナオに後ろめたさを感じてしまったのだ。
たとえるなら、昔の恋人の話を出されたような感じ。
終わったことだと、割りきれていないからこんなに後ろめたいのだ―――そう感じて、俺はそれ以降ほとんど上の空だったように思う。
自分が付き合いたいのは、ナオか飛鳥先輩か。
ナオが好きなはずなのに、もう飛鳥先輩に会うことなど、できないのに。
どうして俺は、ナオにまっすぐ『好きだ』と伝えきれないんだ―――
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