12




その感情に名前なんて、つけたくなかった。

ナオと、セリさん。どちらも飛鳥先輩を思い出させた。そして、話すようになって、セリさんにも惹かれている、と気付いた時、俺は苦悩した。

セリさんを選ぶことは、『顔で選んだ』ことに他ならないのではないか。似たような人が居て、顔が綺麗な方に惹かれてしまうのだ。

それは、『顔で選ぶ奴が嫌い』と公言してきた俺を否定する考えで。

そんな風に考えさせられるようになって、ますますセリさんが苦手になった。ナオが好きなのに、どうして俺はこんなに不安なのだろう。

そうして、俺のアンバランスさを自覚したのが、今日だ。

今日は4人で映画を見に行く日だ。

その日に、ナオは髪の毛を明るくして、緩く巻いてきたのだ。

それを見て、最初に浮かんだ感情は――――『違う』だった。

違う――――その先に続く言葉に、俺は絶望した。

違う―――飛鳥先輩は、そんな髪型ではない。

一瞬でも、そんな風に考えてしまった自分の愚かさを呪った。ナオは飛鳥先輩ではないのだから、茶髪でもいいではないか。

「すげー、染めたの?」

そんな自分を取り繕うように、俺はナオを褒めた。ナオも嬉しそうにしてくれていて、それからたわいない話をしたりして、楽しく過ごせていた。

だけど。

「―――不細工過ぎて有名な奴もいたけどな」

ヒイラギ先輩が、飛鳥先輩を思い出させるような言葉を平然と吐き。狙い澄ましたようなその言葉に、俺はナオに後ろめたさを感じてしまったのだ。

たとえるなら、昔の恋人の話を出されたような感じ。

終わったことだと、割りきれていないからこんなに後ろめたいのだ―――そう感じて、俺はそれ以降ほとんど上の空だったように思う。

自分が付き合いたいのは、ナオか飛鳥先輩か。

ナオが好きなはずなのに、もう飛鳥先輩に会うことなど、できないのに。

どうして俺は、ナオにまっすぐ『好きだ』と伝えきれないんだ―――





[ 94/140 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



TOP


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -