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Side 慶太
―――俺は、セリさんが苦手だった。
「―――ブスカの面影追うのだけは、カメラに失礼だからやめろ」
ヒイラギ先輩にそう言われて、ドキッとしなかったと言ったらウソになる。
偶然ナオと知り合って、その姿に目を奪われた。話してみて、ますます惹かれた。
控え目な優しさも、楽しそうに笑う笑顔も、何もかもが可愛く思えて。
まるで、昔に帰ったような感覚になっていたのだ。
飛鳥先輩と過ごしていた、あの昼休み。あの人の隣は心地よくて、人生で一番幸せな時間だった。
だけど、先輩はいなくなってしまって。
途切れた糸に絶望しながら過ごした一年。『もう失いたくない』という気持ちが強くて。
きっと、俺の望むものは昔から変わっていないのだ。
優しくて、強くて。飛鳥先輩以外にもそんな人に出会えたことが本当に嬉しかった。
飛鳥先輩にできなかった分だけ、優しくしたい。出来るなら手に入れたい。
そんな風に、ナオ個人ではなく、飛鳥先輩の面影ありきで考えていた俺の心情をヒイラギ先輩は皮肉ったのだろうが、自分のナオに対する好意に嘘はつけなかった。
恋心を自覚するのも早く、ナオと一番仲の良いセリさんは一番の恋敵だった。
セリさんが、いい人だからこそ焦った。綺麗で、気配りもできて、余裕もある。そんな人に太刀打ちできる自信もなく、俺はひたすらにアプローチを繰り返す傍ら、セリさんへのけん制を続けた。
だけど、それがますます自分を苦しめた。
セリさんは、俺がどんなに意地悪なことをしても、困ったように笑いながら最後は許してしまう。
その困った顔が、なぜか飛鳥先輩とかぶって。
話し方の端々や、時々ふっとかけられた声。柔らかい口調はおどおどしてなかったが、なぜか飛鳥先輩を思い出させるのだ。
ナオといるときの、はにかみながらも嬉しそうな顔とか。
全部、飛鳥先輩を思い出させて、胸が苦しくなるのだ。
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