10
小さくお礼を言うと、俺は差し出されたケーキをそっと口に含んだ。甘いものは食べているだけでとても幸せな気分になれる。
「おいしいね」
「よかったです」
「ナオ君も食べてみなよ。感想聞かせて?」
「はい」
ナオ君がケーキを食べて、『おいしい』と笑うと俺も笑顔になった。
「何、セリさんチョコダメなんですか?」
「うん…チョコレートアレルギーなんだよね」
「え………?」
口に出すのは嫌だったけれど。もうみんなに迷惑をかけないように素直に口にした。
すると、慶太は驚いたように目を見開いて、考え込むようにしてコーヒーを飲み始めてしまった。
「……?」
「セリさんチョコレートフェア終わったら一緒に来ましょうね!絶対食べてほしいです!」
「あ、うん。それいいね」
不思議に思いつつも、俺は特にかける言葉も思いつかず、ナオ君との会話をしているうちにうやむやになってしまった。
そんなこんなでカフェから出ると、ショップで買い物をして解散になった。
外はすっかり暗くなっていて、ナオ君と慶太はこれからまたDVDを見に家に行くという話だったので、帰り路につくことになった。
「じゃ、またね」
「はい」
「柊君も、またね」
「おう」
そうやって三人と交差点で分かれると、俺は住宅街に向かって歩き始めた。
「寒いな……」
手をさすりながら歩いて、1人ぼやく。薄暗い路地の街灯が道を照らしてくれているが、早く家に帰って温まりたくてしょうがない。
―――今日は、楽しかったな…
二人の邪魔をしてしまわないか心配だったけど、4人でいれてとても楽しかった。本当は慶太とナオ君の恋愛を応援しないといけないのだけれど、またこんなふうに遊べたらいい、と願ってしまうのを許してほしい。
「――――飛鳥先輩っ!」
そんな風に考えていた時だった。後ろの方から急に呼びとめられて振り返ろうとしたところでいきなり抱きしめられ、俺は目を見開く。
「……飛鳥先輩、飛鳥先輩…っ」
飛鳥先輩、そう呼ぶのは1人だけだ。だけど、脳は驚いてその事実を拒否している。
だって、さっきナオ君と帰っていたじゃないか。
俺のことなんて―――覚えてなかったじゃないか。
「どうして…慶太」
抱きしめられる体温にますます混乱しながら呟いた言葉は、びっくりするくらい弱弱しかった。
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