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―――月を見ていると、泣きたくなるのです。
夜のベランダで1人。かぐや姫の気持ちが、少しだけ分かる気がした。
僕と彼女では、理由は少し違うのだろうけど。
故郷への哀愁に涙を流したかぐや姫。僕に故郷のいい思い出なんてないし、帰りたいと強く願うことはないけれど。
月を見ていると、寂しくなる。
月は、輝けば輝くほど、星の光を消してしまう。新月に星たちが一斉に輝くのを見ると、共存できない寂しさを感じる。
どちらも綺麗で、同じ空間に存在しているのに。
故郷が遠くにあり、孤独を感じるかぐや姫。きっと、太陽より月を見て孤独を感じるのは平安時代からの常なのかもしれない。
夜の涼しい空気と、静かな空間も拍車をかけるかもしれない。
寒さで吐いた白い息が薄く立ち昇るのを見ながら、僕はそんなことを考えていた。
「―――雪?」
「冬慈さん」
寝ぼけた冬慈さんの声がして、僕は驚いて振り返った。
冬慈さんはまだ僕がどこにいるかわからないようで、『ベランダです』と声をかけた。
「何でまたそんなところに……」
「なんだか眠れなくて」
「そんな寒い所にいたら眠気も飛んで行ってしまうだろう。おいで」
「はい」
ベランダに来た冬慈さんは、僕にきていたカーディガンを羽織らせると、そのまま部屋に引き戻してしまう。
カラカラと軽い音とともにドアが閉まり、再び温かい空間に戻ってくる。
「冬慈さん、起しちゃってごめんなさい」
「いや、俺が勝手に起きたんだ。それに、ちょっと思いやりが足りなかったよな」
「?」
「明日、合格発表だろ?寝れなくても仕方ない」
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