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予定よりも一日早く仕事を終えてマンションに帰れば、雪はリビングでうたた寝をしていた。

参考書を数冊開いて、シャーペンを持った状態のまま寝ている彼はさながら受験生だ。

俺に遠慮して『看護師になりたい』と言わない雪に『俺の傍にいるつもりなら教養くらい身につけろ』と言って参考書を渡したのが二週間前だ。

開かれたページを見るあたり、短時間でかなり勉強したのだろう。ヒマや不自由がないように雑誌やテレビも置いてあるのに、わき目もふらず勉強していたようだ。

―――いつか、大検受けさせねえとな…

まだ、高校一年のテキストで止まっているが、出来は申し分ない。自分から言わないなら俺が行かせるように仕向けるだけだ。

それに、雪から高校生活を奪った原因は俺にもある。あの人間のクズが子に押し付けるようなことをしなければ、雪は今頃ここにいなかったのだから。

本人も、勉強する意欲はとても強いようで、俺が居る時にはしないが単語帳を持ち歩いているのは知っている。

それでも、秋の夜長にうたた寝をしては風邪をひいてしまうと思い、俺は寝室からカーディガンを持ってくると雪にかけた。

「ん……ヤナギさん?」
「寝てていいから、ベッドに行くぞ。ほら、手伸ばせ」
「何でいるの……?」

言われた通りにしながらも、雪は不思議そうに俺を見ていた。伸ばして来た手を引き寄せて抱き上げると、あやすように背中を撫でながら歩き始める。

「思ったより早く仕事が片付いただけだ」
「ドッキリかと思っちゃった…」
「オマエ驚かして誰が楽しいんだよ」
「なんか、嬉しすぎて嘘みたい…」
「俺が嘘つかねえの知ってるだろうが」

ふんわりと嬉しそうに笑う雪に、俺の心臓が小さくはねた。

俺のもとにきてから、雪は子供らしさを取り戻している気がする。甘え上手になった、と思うと、可愛いと感じるのと同時に誇らしくなった。

愛情を注げば、注いだ分だけ。

緊張を解いて身体を委ね、信頼で返してくれるのだ。

それができるのが俺だけだ、と言いようのない優越感を感じていると、雪がくいくいと服を引っ張ってくる。

「どうした?」
「…せっかくヤナギさんが居るのに、まだ寝たくないです」
「明日もいるから安心しろ。3日は仕事しねえつもりだから」
「たった3日、です」

ぐずるように言う雪に、俺は呆れたように小さくため息をついた。雪のわがままは嫌いじゃない。





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