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冬慈さんの胸に身体を預けながら、僕は冬慈さんの手にすり寄る。頬を何度も撫でられ、僕は夢中で目を閉じた。
「……寂しい、と月を見ていると思うんです」
「それは月のせいではないかもしれないぞ」
「本当ですか?」
「あぁ、1人で見ていたからかもしれない。……いつも月を見て寂しがっていたら、月も悲しいだろ」
「そうですね」
そう言われ、僕は小さくほほ笑んだ。
確かにかぐや姫も1人で見ていたな。おじいさんとおばあさんの優しさの隅にある小さな寂しさを、1人で抱えていたのかもしれない。
でも、僕は1人じゃないから。
厳密にいえば、かぐや姫だって1人じゃなかった。生まれてからも、どんな貴族に言い寄られた時も、ずっとおじいさんとおばあさんに見守られていた。
月の人だと言えないことが、孤独にしてしまっていたのかもしれないけど。
「僕、ちょっとだけかぐや姫のこと考えてました」
「いきなり月に帰りたいとか言い出したら泣くからな」
「冬慈さんがですか?」
「当たり前だろう」
「それはありませんよ。僕の家は、冬慈さんの腕の中です」
寂しくて、辛くて、でも、だからこそあなたの存在に泣きそうになるんです。
こんなに、尊いものなのかと。
触れ合う体温に、もっと溺れてしまいたくなる。足の先まで冬慈さんの足に絡めて、これ以上無いくらい密着すると、僕はホッと息をつけた。
「月を見ながら、かぐや姫のことを考えました。でも、今見たら冬慈さんのことばかり考えてしまいそうです」
眠れない夜に、1人の自分。
大きな夜に、小さな満月。
それでも、必ず朝が来るように。僕を救ってくれる優しい人がいる。
月を見て寂しいと思うのは、きっとそんな人を待ち焦がれているからかもしれない。
でも、月夜は寂しいからこそ、寄り添うには最適な夜かもしれない。
「―――明日、きちんと合格できてたら抱いてくださいね」
「万が一不合格でも抱かせてくれるんだろうな?」
「もう」
茶化すように笑い、僕は冬慈さんに身体を預けた。
どんなに柔らかい高級ベッドより、冬慈さんの筋肉質な腕の中がいい。
―――この腕の中で、僕は誰より幸せになれるのだから。
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