ささやかなプライド




バイト先のコンビニは、ここからは少し距離がある。

急いで走って、涼しい夕方にも関わらず汗だくでバイト先についたころには、もうすぐシフトの時間になる、というところだった。

「すいません、遅くなって」
「お、こんにちは。遅かったから何かあったんじゃないかって心配してたんだよ。というか、すごい汗だねー」
「すいません」
「責めてる訳じゃないさ、いつもマッキーにはお世話になっているからね」

ニコニコと楽しそうに笑う店長に、俺は申し訳ないながらも恥ずかしくなって頭を下げる。

アルバイトっていうのは、経験がすべてじゃないと思うのはこんなときだ。

結局、信頼感がすべてなんだと思う。大したスキルも経験もなく、素人同然な俺が続けさせてもらえるのは、そういうことだ。

スキルがないなら、無遅刻無欠席とか、人として当然のことは絶対に守っていこう。そうしてやってきた俺に店長は優しくしてくれる。だから、俺はますます頑張ろうと思える。

『マッキー』なんて恥ずかしいあだ名をつけられても、俺はこのバイトが好きだった。

「そういえばさ、もうすぐ文化祭なんでしょ?順調?」
「あ、はい。おかげさまで順調です」

着替えてレジに入った俺に、店長はにこやかに話しかけてくれる。

普段は5時から10時まで入っているのだが、最近は準備で遅れてしまうので1時間から2時間遅くしてもらっているのだ。

市の条例であまり遅くまで勤務できないが、店長は本当によくしてくれている。

今日も普段通りのアルバイトを終え、店長に売れ残りの弁当やスイーツをもらって家に帰る。

一昨年父が死んで、母親のみの我が家には、俺の下に二人の妹がいる。

二人の妹には店長がくれたシュークリームを、もらった弁当は明日早朝勤務の母親にメモとともにそれぞれ冷蔵庫に入れた。

そうして風呂に入ると、勉強の時間である。

中学では成績はかなりいい方だったが、高校になった途端成績が下がっては母親が気に病んでしまう。

バイトをさせているから、なんて悲しんでほしくない。

そんなことは全然苦じゃない、余裕なんだ、という風に見せるのが、長男の小さなプライドだった。

そのプライドが、瀧本にもあんな言葉を言うことにつながってしまった。貧乏か貧乏じゃないかと言えばかなり貧乏な部類に入る我が家だが、後悔した事は一度もない。

妹たちをきちんと進学させるため、お金はためておくに越したことはないのだ。

そうして、気が付いたらシャーペンを握ったまま寝ていたりするが、朝日が昇ると同時に妹たちにご飯を作って、そのまま途中まで一緒に学校へ向かう。





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