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「ほら、こっち」

瀧本に言われるままに向かえば、迷うことなくあいている席に案内される。さっきあたりを見回していたのはこういうことか、と少し見直した。

「…いただきます」
「おう、食え食え」

お金を払ったのは俺だ、と言いたくなるような鷹揚な態度に、俺は小さくため息をつく。

嫌いだと知られていると気づいてからは取り繕うこともなくなった。

そんな俺に、瀧本は怒るどころか本気で感心したように『オマエ本当に俺が嫌いだなー』と言ってきた。

「噂で好きになる要素が1つもない」
「実際会ってみたらどう?」
「この上なくイラつく」
「くく、言うね、オマエ」

思いっきり悪意を込めて言ってやったのに、余裕ブッこいて笑っている瀧本に、俺ばっかりペースを乱されているような気がする。

「ちなみに、噂ってどんなの?」
「ヤンキーで女の子をとっかえひっかえな浮気性の最低男で、ヤクザの息子」
「それ噂じゃねえよ、事実」
「ならますます問題だ」

堂々とそう返す瀧本に、俺は頭が痛くなってきた。さっさと食べてしまおう、とハンバーガーをかじっていると、瀧本は俺に話しかけてくる。

「そんなに俺が気に食わないなら西岡に行けばよかったのに」

オマエの頭ならいけるだろ?と言われ、俺は小さくため息をつく。

俺には西岡に行くだけの頭がある。それどころか、中学の時は西岡でトップになれるとまで言われていた。

しかし、俺は西岡に行かなかった。理由は単純である。

「…西岡は、バイト禁止だったから」

親ががんばってくれて、高校に入れさせて貰えるようになったのだ。高校に入ったら俺も働くというのはかねてから決めていたことである。

「何、オマエのとこ貧乏なの?」
「違う、社会勉強したかっただけだ」

俺がそういうと、瀧本はどうでもよさそうに『ふーん』とだけ言った。

それ以上話す気にもなれなくて、俺は残り半分のハンバーガーを一口で食べた。正直胃もたれしそうである。

「じゃ、義理は果たしたから。たまにはクラス活動も手伝えよ」

俺はそれだけ言って、店を後にする。正直なところ見栄を張ったが、バイトに遅れそうなのは本当だった。





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