エピローグ




瀧本はずるい。俺のコンプレックスを、そんなに簡単に解いてしまうなんて。

俺がいていいのだと――許してくれるなんて。

「……お前泣き虫だな」
「うっ、嬉しいんだよ」
「そっか――」

嬉しそうに微笑まれ、大きな手で頭を撫でられる。

大きな優しい温もりに、俺はまた涙した。


―――もっと上手に好きだと言える人間になりたかった。

自然体で、ありのままで暮らして、許されている人が羨ましかった。

でも、俺も、なれるだろうか。

瀧本の隣で、なれるだろうか―――

その日、俺が流した嬉し涙は止まることを知らず、延々と流れつづけた。

そして、泣きつかれて寝て、目を覚ました時瀧本の腕の中にいて、また泣きそうになった――





「そういえばさ、店長が『最近タッキー来ない』って歎いてた」
「ブッ」

――それから数日。事件の真犯人も見つかりクラスに活気が戻ってきた頃。

相変わらず特別教室で食事をしていた時、瀧本は俺の言葉に噴き出した。

「なんだよタッキーって。アイドルか」
「店長のネーミングセンス舐めてたな」
「畜生文句言いに行ってやる」
「今日は準備期間最終日だろうが。俺もバイト休み貰ってるのに文句言いに行けるか」
「クラスの奴らに任せればいいじゃねぇか。お前疑ったこと気にしてるみたいだし押し付けてしまえ」
「ダメだ」

俺が重ねて言えば、瀧本は拗ねたようにそっぽを向く。

そんな姿も可愛く見えるのだから、俺は最早末期だろう。

「――頑張ったらご褒美あげるから、がんばれ」

イタズラっ子のように微笑めば、瀧本もニヤニヤと笑い返す。

その姿さえ、眩しくて。


――こんな幸せな日々を、人はきっと幸せと呼ぶのだろう。


違うから憎らしくて、でも1番愛しい彼に言いたい。



――俺を見つけてくれて、ありがとう。





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