6
扉を蹴破らん勢いで瀧本が入ってきて、女の子達の顔色は真っ青になった。
汗まみれで制服も着崩れ、余裕を無くしたような瀧本は、俺達を見ると低く唸る。
「…何してやがる。返答次第で女でも殴るぞ」
「瀧本っ!」
肩で息をする瀧本に、俺は最後の力を振り絞って抱き着いた。
色気の無い、むしろ暴走を止めるための抱擁はむしろタックルのようだったが、瀧本は抱き留めてくれる。
「俺、彼女たちには何もされてないよ」
「けど、まきむ……」
「傷が痛い。どこかで治療して」
暗に彼女たちに何もするな、とせがむと、瀧本は観念したようにため息をついた。
彼女たちはそれを見て、逃げるように去っていく。
「…瀧本、来てくれてありがとう」
最後の一人がいなくなったのを見届けて、俺は瀧本に擦り寄りながらそう言った。
瀧本は『当然だ』と言い返しながらも、どこか歯切れが悪い。
「――もう少し、早く来れればよかったな」
「これくらい平気だ」
「さっきと言ってることが違うぞ」
「違わないよ。――瀧本が来てくれたから、元気になった」
心配そうに頬を撫でる瀧本の手をとって、笑顔で言う。
――今なら、言える。
俺は小さく深呼吸をして、瀧本を見ながら口を開いた。
「瀧本が好きだから、来てくれて嬉しかった。…俺、素直じゃないし、好きなんてあんまり言えないけど、気持ちは知ってて欲しい」
届いただろうか、この思い。
言えただろうか、虚栄のない、素直な気持ち。
最後の言葉を言い切ると、瀧本の顔が小さく歪んだ。
そんな顔を隠すように、痛いくらい抱きしめられる。
「ちくしょ……っ、死ぬほど嬉しい」
搾り出すように言われた言葉に、胸が熱くなる。
「…俺を幸せに出来るのは、瀧本だけだ。瀧本が俺のことを好きでいてくれるなら、俺のこと好きにしていいから」
「牧村……愛してる」
瀧本はそういうと、俺に優しいキスをした。
俺達はまだ高校生で。
違うのを見ては怨んで、羨ましがって。醜い感情をコントロール出来ない未熟さがあるけど。
でも、違うからこそ、愛しいのだと気づけた。
誰より純粋で、一途な恋をこの手で掴んだ。
こんな恋、二度と出来ない。
だから――この恋が、永遠であればいい。
それは、確信に似た、切なる願いだった。
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