3
欲しい言葉は、全部瀧本がくれた。
本当に都合のいい夢では無いかと胸が震える。
「……俺、卑屈だし、何にも無いし、好きになったっていいことないだろ?」
「俺にはお前が全部可愛く見えるんだからしょうがないだろ」
蕩けそうなほどの甘い言葉で囁かれ、俺は恥ずかしくなって顔を赤くした。
「甘いものが好きで、申し訳なさそうにしながらも幸せに食べるところとか。我慢してるのを見せないようにしてるいじらしさとか。意外と素直にありがとうって言ってくれるところとか、あげたらキリが無いな」
「……そんなこと言うの、瀧本だけだ」
「だったら好都合。離れていたら危なっかしくて見てられないからな。誰にも邪魔されない特等席で甘やかしたい」
顔が熱くて、燃えてしまいそうだ。
好きな人にこんな風に言われて、舞い上がってしまいそうなほど嬉しい。
嬉しいのに、『俺もすき』っていう言葉が出てこない。
俺が無言なのを見て、瀧本はさらに続けた。
「元々俺は真面目な恋愛したことないんだ…容姿とステイタス目当てで寄って来る奴らを馬鹿にして、つまみ食いだーなんて意気がってたからな」
瀧本にも、いろいろあったのだろう。
斜に構えて、飄々としてみせて。心の内は絶対明かさない。
そうやって生きてきた瀧本が、初めて自分から求めた相手が俺なのだ、と聞かされて堪らなくなる。
――それは、本当に俺で良かったのか?
好きで嬉しいのと、苦しいのが混在している。
瀧本の気持ちは嬉しいのに、それに応えられる自分である自信がない。
「……そんな大事な初恋だから、ちゃんと考えてくれ。文化祭ぐらいまでなら待てるから」
「あ…………っ」
俺が何も言えないでいると、瀧本はそういって離れてしまう。
待ってくれ、俺も同じ気持ちなんだ。
そういいたいのに、声にならない。
「瀧本……っ」
俺が呼べば、瀧本は困ったように笑った。
違う、そんな顔をさせたいんじゃない。
瀧本、瀧本―――っ
―――そう思っていたのに、結局思いが声になることは無かった。
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