ヒトスジの光
そう言ったのは、他でもない、瀧本だった。
普段は昼過ぎに来るから、朝礼前に来たことはかなり珍しい。
俺が驚いていると、瀧本は俺の隣に立って口を開いた。
「――このクラスで誰が1番頑張ってたか、分からないとは言わせねぇぞ。そんな奴が、わざわざ自分の努力をぶち壊すなんて可笑しいだろうが」
「でも………っ」
「それに、男子に頼めば女子だってできるよな?」
逆に侮蔑混じりの顔を向けられ、女の子は顔を真っ赤にしていた。
「牧村、来い」
しかし、そんな彼女に構わず、瀧本は俺の手を引いて教室から出ていく。
連れて行かれた先は例の特別教室で、俺は瀧本が口を開く前に口を開いた。
「瀧本、ありがとう。……瀧本には、助けられてばっかりだ」
俺の無力さが、歯痒い。
どうして俺はこうなんだろう。
あの時、自分の潔白を示すために言葉を尽くせなかった。正確には、尽くす勇気が無かった。
瀧本みたいに、誰かを庇う勇気も、クラスメイトたちみたいにフォローする力もない。
何もない、無力な俺。
「……結局、俺はないものねだりなんだ」
無力な自分が悔しくて。でも、変える勇気も無くて。
ヤクザを嫌いだと言いながら、本当は少しだけ憧れていた。
目に見えない、心の繋がりを信じられる強さ。
不良だってそうだ。結局俺は文句ばかりで、悪ぶる勇気もない。
ないからこそ――妬ましかったんだ。
俺の嫌いは、うらやましいの裏返し。
浮気性だって、俺は無力過ぎて自分と家族を守ることで精一杯で。
たった一人さえ、満足に想えたことも無いのだから、たくさんの人を認めて、愛せる奔放さと器量の大きさが、どこかでうらやましかったんだ。
「バカみたいだよな………っ」
昨日散々涙を流したのに、右の頬をまた暖かいものが伝った。
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