ナミダナミダ




目を丸くして、言葉を失くしている俺に、彼女は勝ち誇ったように笑った。

「でしょ?―――本当はこんなこと言いたくないんだけど、分かったら瀧本から離れてくれない?ただでさえ女のライバルが多くて大変なんだから」

男まで増えたらたまんない、と言いながら、彼女は同情をするような表情を見せた。

「……あんたもさ、あたしと一緒。瀧本に遊ばれた1人なんだよ。あたしみたいに引き返せなくなる前に、さっさと身を引いた方がいいと思うわ」

そういいながら。彼女はブレザーの袖をまくって見せる。そこに見える無数の傷跡に、俺は言葉を失った。

「お腹はもっとひどいわ。…彼女じゃなくなっても、みんな好きなのよ。嫉妬して、嫉妬されて、ふられたらざまあみろってあざ笑う。―――それでも好きになってほしいって思うんだから、もう中毒だよね」

見えてしまうところには傷は一切なく、しかし袖の下にはみじめな傷跡。たとえ彼女になれたところで、好きな人に肌をさらすことすらままならない。

「……どうして、ただ好きなままでいられなかったんだろうね」

歪んでしまった愛情に、俺は胸が痛くなった。俺だって、最近そう思ってしまったのを覚えている。

変わらずにいられないから、自分ではどうすることもできない。でも、気づかないことはもっと悲しいことだ。

「…あたしだって、綺麗な気持ちなまま、思っていたかったよ……っ」

そう呟くと、彼女が涙を流し始める。俺は切なくなって、彼女の頭を撫でて慰めることしかできなかった。

境遇も違う、性別も違う、共通点は瀧本だけ。それでも、今ここでこうしている。

「―――悲しませて、ごめんね」
「あんたがそんなこと言ったって、他にはわんさかいるんだから」
「だって、俺は自分の気持ちさえ分かってないんだ。それなのに…」

優しさに甘えていた。みたいものしか見ず、本当にみるべきものを見失っていた。

ちゃんと考えなければいけない。そう思うと、今までの自分が恥ずかしくなってきた。

「わざわざ言いに来てくれて、ありがとうね」
「……変なの」

彼女はそう言ってふてくされた顔をすると、そのまま帰ってしまった。

涙にぬれた赤い目元が、夕焼けと同じ色で少しだけ眩しくて、女の子は強いな、と尊敬の気持ちさえ抱いた。

「―――俺も、考えなきゃ」

このままでいたいなんて、思ってはいけない。


瀧本が考えるのを待つなんて、他人任せもいけない。


―――俺のことは、俺が考えなくちゃ。





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