どうして
瀧本のいる場所は大体決まっている。
授業中は特別教室を使っているとばれるので中庭屋上、授業以外はいつもお昼にいる特別教室にいる。
たまにいかにも不良、みたいな人と一緒にいたりするが、瀧本が話しかけているというより自然と相手が寄ってきているようで、瀧本はすぐに俺を見つけると避難してくる。
今日もそのパターンだろう、と思って特別教室に行けば、瀧本は相変わらずそこで椅子にもたれかかって寝ていた。
「瀧本―」
中に入り、瀧本に呼び掛ける。瀧本は寝ている、というより目を閉じているという感じで眠りが浅い。いつも声をかければすぐに目を開けて返事をしてくれる。
しかし、今日は返事が返ってこず、不思議に思いながら瀧本に近づいた。
「瀧本?どうし―――」
どうした、ということは叶わなかった。
瀧本が、俺にキスをしてきたからだ。
突然のことに、俺は目を丸くしてもがく。後ろ頭をがっちりホールドされ、腕を突っぱねてもあまり力が入らない。
瀧本の膝の上に乗り上げるような形になり、背中にも腕をまわされてますます距離が近くなる。
――コイツ、寝ぼけてる……っ!
必死でもがく俺をもろともせず、瀧本は俺の隙をついて舌まで入れて来た。絡め取られる感覚に背筋がゾクリと震え、突っ張っていた腕はいつしか縋りつくように瀧本の制服を握りしめていた。
力がうまく入らない。ようやく解放されたころにはすっかり酸欠になっていて、瀧本の膝の上で瀧本にしなだれかかるようになっていた。
「―――牧村」
名前を呼ばれて、瀧本が寝ぼけているわけではないことを知る。
「なんで……」
寝ぼけてないなら、なんで。なんで俺に、キスなんかするんだ。
そんな意味を込めて瀧本にそういうと、瀧本は短く返事をした。
「シラネ」
今までになくそっけない返答に、唇が震える。酸欠で唇の感覚を失ってしまっているが、それでも何か言おうと口をパクパクさせていると、瀧本が起き上がった。
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