些細な変化
「―――ヤッべー!!今日俺当たるじゃん!」
―――次の日。5時間目と6時間目の間休みに俺が寝ようとしていると、そんな声が聞こえて来た。
どうやら、予習を忘れて来たようで、1人の男子生徒が焦ったように友人たちにノートを見せてもらおうとしていた。
次の授業は英語で、とても厳しい先生で有名である。
「……俺の、見せようか?」
俺は彼らのもとへ向かうと、そう声をかけた。
教室の離れた位置にいる彼らに、今までなら声をかけずに寝ていただろう。だけど、なぜだかそうしたい気分になって、気がつけばそう声をかけていた。
男子生徒は友人とともに目を丸くしていたが、そのあとゆっくり口を開いた。
「――――ほ、本当!?すっげー嬉しい!!」
屈託ない笑顔で言われ、俺は面食らう。正直予想以上のリアクションで、俺は慌ててノートを取って彼らのもとに戻った。
「委員長、こっち座りなよ!ついでによくわからないから写すだけじゃなくて教えて!」
彼に言われるがまま、俺は大人しく席につき、問題の場所を解説していく。他の友人たちも興味深げに見ていて、なんだかくすぐったかった。
「あー、そういうことか!ここの単語の意味取り間違えてたのか」
「じゃあ委員長、こっちの意味は?」
「こっちは無生物主語だから…」
他の友人たちも声をかけてきて、短い時間だったが随分有意義な勉強になったと思う。あと3分を残して、無事予習の範囲を終えることができた。
「あー助かった。…委員長、ほんとありがとう!」
「いや、そんな大したことじゃないし」
「でも本当によかったよ。いっつも寝てるから声掛けていいかわかんなかったし」
「疲れてるんだと思うと申し訳なくてさー」
彼らから口々にそう言われ、俺は頬が緩むのを感じた。
―――ちゃんと、みんな見てくれていたのだ。
接触がないからといって、無関心だとは限らない。俺をクラスの一員として、ちゃんと見てくれていたことに感動して、俺は嬉しくてしょうがなかった。
「…こちらこそ、ありがとう」
正直に認めれば、俺は余裕がなかったように感じる。だけど、瀧本と話せて、どこか心で余裕ができて、難しかったことがこんなに簡単にできるようになっている。
それからの授業は普通通りだったが、俺はずっと周りに花が飛んでいるようだった。
―――瀧本に、礼を言わないと。
本当に嫌いなタイプだったけど。気がつけばいつも頼ってばっかりで。
相変わらず授業に出ていない瀧本を思いながら、俺はペンを動かしたのだった……。
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