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先輩はごまかすように言ったが、俺は誤魔化されなかった。俺は先輩をもう一度抱きしめて、宥めるように口を開く。

「先輩が先輩であることには、変わりありませんから」
「そりゃそうだ。俺は人魚でも魔女でも何でもない、ただの樋口由紀(ゆき)だ」
「……はい」
「そう俺は俺なんだ。…なのに、大学まで追いかけるなんて、馬鹿だよな」

先輩はきっと、キャプテンとその彼女の間柄を引き裂いてしまったのだろう。それが故意であれ、偶然であれ、先輩はとても傷ついたと思う。

そして尚もキャプテンの傍にいる自分に、自己嫌悪しているのだ。

それが分かっているからこそ、俺は何も言えなかった。

自己嫌悪に何を口出ししても響かない気がして、俺はそっと抱きしめるだけにとどめた。

「慰めるのが下手だな童貞は」
「…すみません」
「いいよ、身体で慰めて」

先輩はそういうと、俺の唇にキスをする。

少し伸びあがってキスをする先輩に、俺は少し身をかがめる。するとすぐに舌を絡められ、俺は夢中で舌を絡め返した。

「んん…っ、はぁ、もっと」
「先輩…樋口先輩…」
「あぁ…っ」

濡れたシャツの間から先輩の肌に触れると、先輩はせつなげに啼く。

その声に煽られた俺は、先輩への恋しさを感じながら、この行為の意味を考えることを放棄したのだった。




―――もう、何でもいいなと思ったのだ。

先輩が人魚じゃなくても。

叶わぬ恋心を利用されているだけだと知っていても。


―――恋に溺れる俺には、先輩とのキスだけが生命線だったのだから。





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