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必死に晴陽が腰を落とすたび、揺れる頭から汗が飛ぶ。ぼたぼた溢れる涙に任せて、晴陽が叫んだ。
「今の俺には、千秋に気持ち良くなってもらうことしかできない。―――お願い、止めないで」
「んだよ、それ」
「俺は、ずっと千秋しか見てないよ。大人なんかどうでもいい、勉強だって、千秋がいつか頼ってきてくれないかなって思ってたから頑張ってた。俺には、千秋みたいに不良になる勇気も強さもないけど、いつだって隣に置いてほしかった」
「―――――っ」
「今、俺で気持ち良くなって。俺は―――千秋が満足してくれるならそれでいい」
―――とんだ、茶番だと思った。
ずっとどっか遠くを見てると思ってた幼馴染。学校や国境、本当にくだらないカテゴライズの中に晴陽はいなかった。
ただずっと―――俺を見ていた。
それに気付かずに、『俺たちとは違う』と馬鹿にしていた俺が一番のバカだ。
「晴陽………」
「ん、ンぁ…っ」
腹筋を使って起き上がると、刺激をする位置がかわったことに嬌声が漏れる。逃げようとする腰を掴むと、乱暴に突き上げた。
「ひっ、あ、あぁ、はぁっ!」
「よく覚えとけ…っ!俺は人に指図されるのが嫌いなんだよ」
「ん、知ってる…、ひ、いぁっ、」
「ついでに好きなのはカスタードプリンだ。お前が俺の食ったときマジギレしただろ」
「それも、ん、し、しってる……よ?」
小学校の給食のとき、こっそり大事に持って帰ってたよね、と途切れ途切れに晴陽がささやく。
本当に何でも知っているオサナナジミ。どうして、そのままじゃ駄目だったんだろう。
「……なんで、あの頃のままいられねぇんだろうな」
「ん、ちあき、ちあきっ」
突き上げながら自嘲気味につぶやくと、前立腺に当たりだしたのか晴陽の声が甘くなる。時折の締め付けに持って行かれそうで、やっぱりこっちの方が気持ちいい。
ただ腰を振ったくればいいわけじゃないんだ、と晴陽に言う。この距離だから晴陽の顔はよく見えないが、耳がカッと熱を持ったのを感じた。
「…ちあきは、いっ、つ、もおれのさきにいて、おいていっちゃう。かわっちゃう。でも―――そんな、とこが、かっこいいよっ」
驚き目を見張ると、晴陽が限界だったのかベッドに倒れ込んだ。肩で息をするヤツの横に手を置いて至近距離で覗き込むと……笑っていた。
昔の面影を残す、あどけない笑顔で。
「どんなちあきもかっこいいよ。だから…後悔しなくていい。―――おいてかれないように、おれが頑張るだけだから。だから、千秋―――」
泣かないで、と続けたヤツに、泣いてんのはお前だと返した。
実際俺は泣いていない。それでもすごく、胸が痛かった。
「もう、黙ってろよ―――」
これ以上、聞いていられなかった。痛々しくて、滑稽で、哀れで。でも―――だれが一番馬鹿かを突きつけられる。
俺はそれを最後に、貪るように晴陽を抱いたのだった――――
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