※大学生同士、離別、やや時代物





―――もうここでお別れだ、とお互いに言い出せないまま。

『時間があるし、駅の周りを散策しようか』と彼は言い出した。

―――僕が彼、高波誠之助(たかなみせいのすけ)と出会ったのは4年も前のことだ。

四国の田舎から来たという彼は、名前に似合わず誠実のかけらもない奴だった。たまたま講義で一緒になったからという理由で僕の下宿に転がり込み、そのまま居ついてしまった。

家事も勉強もろくにせず、そのくせ僕の着物や書物は自分のもののように勝手に使ってしまう。

僕も気が強い方ではない、言い返すこともできないまま誠之助の奔放さに流され。

それでも、うんざりしたのは最初の方だけだった。気が付けば誠之助は僕のそばにいて、甘えてくるのも僕だけだと思うと悪くなかった。地味な人生を歩んできた中で、誠之助の存在は暖かさと新しさを含んだ春の風のようだったし、色味のなかった僕の生活はとても鮮やかになった。

男同士なんて、きっと後ろ指を指されながら生きていかなければいけないのに。そんな人生を選択させたのは誠之助だ。

『誠之助と一緒ならいいかな』って思ってしまい、あまつさえそれを誠之助は受け止めてくれる。彼の不誠実さの中に見せる心遣いが心地よく、幼稚な独占欲すらも甘美な喜びに変えてくれる誠之助におぼれていったのは、気が付けば僕の方だった。

そんな怖いくらいの幸せは、いつか終焉を迎え。

『郷里の父が病に倒れた』との知らせに、誠之助は大学校卒業と同時に四国に帰る事になった。

そうして、今日。卒業式を終えると同時に下宿から荷物を持ってきて下宿を飛び出し、汽車を待っているのだ。

隣を歩く誠之助は、びっくりするくらい静かだった。夏も冬も関係なく抱き着いてきたりと、普段とても喧しいので、なんだか落ち着かない。

閨で身体を重ねても、たまに誠之助は一人で起きてぼんやりしていることがあった。郷里のことを考えているのだろうと考えると、僕は何も言えなくなる。

「っ」
「……寒いから、お願い」

だから、かわりに荷物を持っていない方の彼の手をそっと握った。外で手を握るなんて、恥ずかしくて出来ないと駄々をこねたことがある僕からの行動に、誠之助は驚いたあと、雪解けのような甘い笑顔を浮かべた。

「……うん、俺からもお願いしようかと思ってた」

雪も降ってきたしな、と言いながら、誠之助は空を見上げる。確かにはらはらと白い小粒が空から舞い降りていた。

「本当だ、ごみみたい」
「おいおい…それが文学専攻を最優秀成績で卒業した奴の言葉かよ」
「そうかな?」





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