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心臓に、針を刺されたようだった。
「風紀室に最後まで残るんだ、アイツ。オマエと一緒にいるのがそれだけ嫌なんだろうな。―――そんな薄っぺらい関係で、宮田を預けられると思うかよ」
風紀委員長様はそう言って僕を一睨みした後、今度こそ話が終わったというように僕を反対側へ歩いていってしまう。
―――そんな、宮田君が……
僕はと言えば、その場から少しも動くことができなかった。
宮田君は、優しくて。どんなに疲れていても僕のことを気にかけてくれて、とても大事にしてくれていて。
「…………っ」
自然と、涙が溢れて来た。
僕ばっかりよくしてもらうだけで、僕は何も返せていない。宮田君が愛想を尽かしてしまうのも当然だろう。
優しいから、口に出さなかっただけで、本当はとても迷惑していたんだ。
「ごめん、ごめんね…宮田君……っ」
どうして、もっと仲良くなれると思えたんだろう。宮田君は我慢してばかりで、いつも苦労してばかりいるのに、どうしてそんな奴と仲良くしてくれるかもなんて考えてたんだろう。
今までの感謝でいっぱいで、宮田君がとても大事だから。
―――出来るだけ早く、今の部屋から出て行こう。
―――泣きながら部屋に戻り、僕は早速荷造りにうつった。
「…やっぱり、僕が毎朝鏡の前で占拠するの、嫌だったんだろうな。宮田君もお年頃だし、きっとワックスとか使ってもっとかっこよくしたかったんだ。それとも、二つ買ってきてくれてたプリンどっちも僕が食べちゃったからかな…」
自分の部屋にこもりながら自分の荷物を整理していくと、ネガティブさにどんどん磨きがかかっていく。
でも、もういいかと思った。
ここは自分の部屋で、常に前を向いていなければならない理由などないのだから。
隙を見せないように、おち込んではいけない。『相談に乗ってあげるよ』は『セクハラするから』と同意義だと思え、というのは先輩の教訓だ。
「……もしかして、そういうところが嫌だったのかな」
僕と一緒にいて、部屋の中でのことを知っているから、風紀委員長様が言うように『猫かぶり』だと思って毛嫌いされているのかもしれない。
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