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「――――何してんの?」
「あ、おかえりなさい」

―――その日の晩。寮の自室でくつろいでいると、同室者兼僕の監視役、宮田君が呆れたように呟いた。

宮田君は、平凡な見た目ながら風紀委員に属し、僕を監視している。僕も、部屋の中でまでそんなに気を張っていられないので、宮田君の前ではしたいようにして生きてきた。

「見て!これ温熱効果があるアイマスクなんだけど、ラベンダーの香りもついててリラックス効果があるんだって!」
「へ、へー……なんでこんなの使ってるの?」
「今日ね!クラスメイトの子に『委員長大丈夫?疲れてない?』って心配されちゃって。疲れとかそんな俗物的なものが見えてしまうような状態じゃいけないと思うんだよね。だから、鏡で自分の顔を分析した結果、目元に隈が出来かけているということに気づいてアイマスクしてるの」
「俗物……うわぁ」
「いいじゃん、別に。あと、この後鼻パックするから」
「もはや男子高校生の持ち物じゃねえ……」

呆れたようにいいながら、宮田君は僕の隣に座る。委員会の仕事で疲れたのかもしれない。

『僕のマイナスイオンオーラでいくらでも癒されていいよ』って言ったら『違うから』と言われた。

「あ、そういえばこの前の中間考査結果出てたよ。また一番だったね」
「ふふ、当然だよ」

自信満々に返して、僕はアイマスクの下で小さくほほ笑んだ。

嘘、本当はすごく嬉しい。

すごく勉強しても、勉強しても、ちゃんと出来ているかいつも不安で。試験前は寝る間も惜しんで勉強しているけど、そのことを気取られないようにするのが必死で。

―――だから、努力が結果になって返ってきてくれるととても嬉しい。

「……うん、だからおめでとう」

宮田君はそういうと、僕の頭を撫でた。

その感覚に、僕の心は落ち着かなくなる。

―――欲をいえば、普通の男子高校生らしい生活がしてみたいなんて、思っちゃだめだ。

本当は、友達と音楽の話題で楽しんだり、馬鹿笑いしたりしてみたい。

放課後泥だらけになるまでサッカーで遊んだり、土日は友達の家でゲームしたり、街中まで遊びに行ったりしたい。

コイバナで盛り上がったり、好きな子のことを考えて胸がいっぱいになるような、そんな青春をしてみたい。

そんな欲望が、宮田君といると僕を支配する。

僕と宮田君は、友達ですらない。宮田君は風紀で、監視役だから優しくしてくれるだけなんだ。

でも、もし僕がお願いすれば、もっと仲良くなれるんじゃないかなって。

そんな淡い期待が、宮田君が優しくしてくれるたびに大きくなって、僕は宮田君が頭をなでる優しい感触に身を任せたのだった。





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