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―――僕の通う学園は、全寮制中高一貫型男子校。
もう、それだけ言えばわかるよね?
でも、この学校には他の学園にはないシステムがあって、親衛隊の数は風紀によって制限されているのだ。
以前の風紀委員が決めた方針で、『親衛隊は10隊以上作ってはいけない』規則になっている。
何故かと言えば、乱立する親衛隊の統制を風紀委員だけでは取りきれず、制裁が当然のように行われ、治安が最悪なものとなっていたからで。
だから、親衛隊の編成を、風紀の目が届く範囲まで制限したのだ。
親衛隊の編成制限を超えて親衛隊を作れば、厳罰処分にされる。
そのため、親衛隊を作ること自体にみんなが慎重になり、生徒会の皆様に親衛隊を作った後は『誰に作ろうか』という膠着状態が長く続く。
この期間、そのことばかりに気を取られてしまうから制裁が行われることはない。
また、そうして親衛隊を制限ぎりぎりまで作ってしまった後には、風紀委員から『親衛隊が出来そうな生徒として候補に上がった者』には監視がついてしまう。
そのため、不用意に近づくことが出来なくなるし、結果として制裁の抑止につながるという、何ともまぁよく出来たシステムだったりする。
厳罰もかなり厳しいもので、非公式親衛隊に名を連ねてしまえば即刻停学、所属している部活があればその部活はすべからく活動停止となる。
自分だけの停学なら文句を言う人は少ないかもしれないが、他人に迷惑をかけてまで親衛隊をつくりたい、という骨のある人はあまりいないようで今のところ非公式親衛隊が出来たという話は聞いたことがない。
―――そんな学園で、不運にも僕は『親衛隊が出来そうな人』候補になってしまった。
本当は、最後の最後まで僕ともう一人の先輩とでもめたらしい。
僕たち当人をも巻き込んだとても大きな話になってしまったが、先輩の方が卒業も近く、一度だけでも親衛隊を作って心安らかに過ごしてもらおうということになった。
そのことを僕が提案すると、先輩と親衛隊の皆さんは泣いて喜んでいた。
先輩は僕の手を取って泣きながら笑って、『いいこと教えてあげるね』と僕の耳にこう囁いたのだ。
『―――この学園でいきて行きたければ、隙を作っちゃだめだよ。可愛い容姿を武器にして、他の男の生き血をすすって生きて行かなくちゃ』
―――最初はその言葉を聞いた時、当然だけど背筋が震えた。
だけど、そのあと身をもってその言葉を理解することになる。
風紀の監視がついているといっても、完ぺきではない。
授業中にセクハラまがいのことをされるのは日常茶飯事だったし、体育の着替えの時クラスメイトが僕の制服の匂いを嗅いでいるのを見たときは泣きたくなった。
―――自分で自分を守るためには、隙をつくってはいけない。
近づくのも畏れ多いような、神格化された存在に自分がならなくてはならない。親衛隊の助けが借りられないのだから、自分だけの力で。
自分の容姿も、使えるのならいくらでも使って。
勉強だって、常に一番でなくては。運動も出来て、何をさせてもそつなくこなせる、そんな存在になるために僕は死に物狂いで努力した。
そうして、今の僕があるんだ―――
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