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そういうと、『おさわりも禁止』と言って俺の腕をつねる。痛みに俺が腕を離すと、珠樹は驚いたように俺の手を掴んだ。

「日高、血…っ!」
「あぁ、さっきのか」
「なんでそんなに冷静なんだよ。救急箱借りてくる」

珠樹はそういうと、会議室から出て行きすぐに救急箱を持って俺のところに戻ってきた。

「別にいいって」
「日高のためにしてる訳じゃないの。僕が見てて気分が悪いの」
「言うようになったな」
「もう付き合ってないからね」
「これから付き合うかもだろう?」
「調子乗らないで」

呆れたようにいいながら、それでも丁寧に処置を施す珠樹に、俺は歓喜で胸が震えるようだった。もう一度、こんな風に会話が出来るようになるなんて。

「……でも、稜さんに頭下げた時、かっこいいなって思ったよ」
「珠樹…」
「僕と話すために頭下げてくれたんでしょう?正直、嬉しかった」
「惚れたか?」
「調子乗らないでって何回いえば分ってくれるのかなぁ」

呆れたようにため息をついて笑う珠樹が、愛しい。

始めて抱いた夜から変わらないこの気持ち。濁らないように、綺麗なまま、ずっと抱きしめていたい。

首の皮一枚つなげることができて、俺は笑いを抑えることができない。

このつながりを、もう一度しっかりつなぎとめるためのスタートラインに立つことができたことすら奇跡のようだ。

だから、俺はまたスタートラインから走り抜けるだけだ。

珠樹を幸せにするためなら、この先にどんな難関があったとしてもかまわない。

珠樹が疲れたなら、励ましたい。背中を押して、また珠樹が俺の好きな笑顔で笑ってくれるように。

そんな関係に、もう一度なりたい。

離れてしまった距離を、もう一度縮めたい。彼の変化に気づけて、背中を押せる距離に立ちたい。

わかれてしまった別々の道が、いつか同じ方向に向かうように。

―――彼の進んだ道の隣に、俺の道を築けますように。



そんな風に考えると、愛しい気持ちが溢れて来て、俺は後で怒られるのを承知の上で珠樹をギュッと抱きしめたのだった。





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