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「……お願いです、一度だけでいいから、二人で話させてください。10分でもいいから、お願いします」

この男が珠樹に信頼してもらえたのだって、俺が珠樹を突き放したからだ。

この屈辱は、俺が馬鹿だったツケで。握りすぎて血が溢れる手に構うこともできず、俺は何度も頭を下げた。

「……日高、頭をあげて」
「珠樹、」
「稜さん、大丈夫です。わざわざここまで足を運んできてくれたんだし、きっと大事な話だと思いますから」
「……すみません、ちょっと会議室貸してやってください」

稜、と呼ばれた目の前の男は、深くため息をつくとプロデューサーにそういった。

何はともあれ、話をさせてもらえる雰囲気になって俺はホッと息を吐く。

「日高、こっち」

懐かしい響きで珠樹に名前を呼ばれ、俺は言われるままに会議室に入る。珠樹は俺が扉を閉めたのを確認すると、さっきとは打って変わって低い声でこういった。

「…何、今更」
「会いたかったんだ」
「ふざけないで!僕たち、もう別れてるじゃん」
「あぁ、そうだ」

別れてない、と言い返せたらどんなに良かっただろう。でも、珠樹がそう思っているというなら、それが真実で。

「…別れてるからこそ、遠慮して言えなかったこと、全部聞きに来た」

そういうと、珠樹は驚いたように目を丸くする。

「オマエが遠慮してるの見て、ずっとイライラしてた。その分八つ当たりして…最低だった。だから、オマエの気持ち全部受け止めたい。俺は今でも珠樹が好きだから、珠樹がまた一歩踏み出せるように、傷つけた分だけ、受け止めたい」
「…………っ」

まっすぐ珠樹を見て言えば、おののくように一歩後ずさる。俺は一歩一歩珠樹に近づくと、そっと抱きしめた。

「…今まで散々傷つけて、ごめんな」
「あ、謝ればいいなんて…っ」

そういいかけたところで、珠樹が俺の腕の中で泣き始める。久々に抱きしめた身体は、また痩せたかもしれない。

そんなことを考えながら背中を撫でていると、しゃくりあげる珠樹が俺の腕の中で叫んだ。

「…日高の馬鹿っ!どうして女の子とばっかり一緒にいるの?僕だけ見てよ…っ!それから、ちょっとは記念日覚えててよ!」
「うん、」
「料理にはうるさいし、酒癖悪いし、抱きつくのも嫌がるし!日高にとって、僕って何だったの?僕の好きな気持ち、からかってたの?」
「そんなんじゃない」
「じゃあ……どうして連絡くれなかったの!!」





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