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「―――で、あなたは撮影希望者ですか?」
「違う、珠樹にあわせてくれ」

―――そして次の日。DVDを制作した会社に俺は乗り込んで直談判していた。

プロデューサーだと名乗る男にそういうと、あからさまに迷惑そうな顔になる。俺は無理を承知で頭を下げた。

「―――会わせてくれれば何でもする。日高だと言えば、珠樹も分かるから」
「でもねえ……っ」
「お願いします」

当然ながら、珠樹は俺からの連絡に出なかった。メールアドレスも変わっていたし、着信も拒否されていた。

だから、残る連絡手段はここだけで。

俺に根負けしたのか、プロデューサーはどこかに連絡してくれた。そうして、事情を話すと通話を切り、心底迷惑そうに『そこのソファーに座って』と言われる。

「ありがとうございます」

その言葉に従って待つこと30分、珠樹はやってきた。

―――別の男と一緒に。

「すみません遅くなりました…」

申し訳なさそうにスタッフたちに謝りながら俺のところに来る珠樹。その横にいる顔には見覚えがあった。

あのDVDに出ていた男だ。

どうしてそいつと、と思うとまた嫉妬が噴き出してくる。

それでも、ここで怒鳴りつけたら同じだ。

俺は爪が食いこんで血が滲むほどギュッと手を握りしめると、自分を落ち着かせて努めて冷静に声をかけた。

「―――珠樹、久しぶり」
「日高…」
「ちょっと話したいんだ、一緒に来てくれないか」

俺がそういうと、珠樹は迷っているようだった。困ったように視線をさまよわせると、後ろに控えていたあの男を見る。

「―――行かせると、思う?」

男は珠樹の視線を受けて、俺の前に立ちはだかった。珠樹の信頼を勝ち取ったこの男が、全力で憎い。

それでも、高圧的な物言いにまたキレてしまいそうになっても、耐えた。

―――俺は、珠樹のためならなんだってできる。

そう自分に言い聞かせ、一番憎い男に向かって俺は頭を下げた。





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