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俺に泣く資格など、どこにもないのに。
『―――そんなに俺が好きなら、誰かに股開いて金もらってこいよ。インランなオマエも満足できるし、一石二鳥じゃないか』
そういったのは、俺だ。自分への愛情を逆手に取った、卑怯ないい方。
イライラしていて、それでもその日の珠樹はしつこかった。普段は俺が一言いえば寝かせてくれるのに、その日はなかなか寝室に行かせてくれなくて。
腕を振り払い、イライラしながら言った一言。
そうして、珠樹が居なくなって気づいたのだ。
―――あの日は、珠樹の誕生日だったんだと。
あのできことで、先に珠樹の心を突き放したのは俺だ。だから、今珠樹に会うことが出来ない。
ほかの男に抱かれる珠樹を、画面越しに見ることしかできない。
なんと馬鹿だったのだろう。そればかりが頭の中を占めて。
『……彼氏は、君の何が不満だったんだろうね』
1人の男優がそう呟いたとき、珠樹も静かに涙を流し始めた。その姿は、俺が一番見たくて、一番見たくなかったもので。
「………珠樹、珠樹…っ」
泣きながら、画面の珠樹を撫でた。
笑っていて欲しかったんだ。珠樹が泣かないで済むならどんな悪者にもなれるくらい、珠樹の笑顔を守りたかった。
でも、偽りの笑顔じゃ嫌だったんだ。
我慢して、それを押し殺すための仮面なんて俺は望んでなかった。
俺は、どうすればよかったのだろう。どうして、珠樹を抱きしめてあげられないんだろう。
「……珠樹…」
俺は画面の珠樹に、震えながらキスをした。
不満なんてない。俺が馬鹿だっただけで。どうすれば珠樹に素直になってもらえるか分からなかっただけで。
分からなかったから、八つ当たりして。
たくさん傷つけてごめん。もう逃げないから。
珠樹ともう一度上手くいかなくてもいい。珠樹に泣いて欲しくない。
―――傷つけてしまった分だけ、珠樹の傷をいやして、背中を押したいんだ。
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