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※エロなし、死ネタ、猫視点
人のいう『愛』とは何ぞ。
彼を見ていると、そればかりを考える。
「ねえ、今日仙人様お相手いらっしゃらないらしいわよ」
「やーん、どうしようかしら」
「思い切っていってみなさいよ。あなたなら、気に入ってもらえるかもしれないわよ」
ひいき目にしても綺麗な顔で、山奥に1人住む彼は巷で人気者だ。物書きという仕事も相まって浮世離れした彼のあだ名は『仙人様』。
そうして、彼のもとにはたくさんの人が集まる。
僕はそれを、彼の家の屋根から見つめていた。
僕は、何となく山に住み着いた捨て猫で、彼がえさをくれるから何となく傍にいる。
彼をご主人様だと思ったことはないし、気まぐれに顔を出した時にえさをくれる都合のいい人間程度だ。
そんな彼に、都合のいい人間がまた集まる。
一度でいいから、あの綺麗な顔で愛をささやいてもらいたい。そうして、あわよくば自分のものにしたい。
貞操観念だとか、そういうモノを持っていない仙人様は、誰でも相手にする。
そうして、いつもこう聞くのだ。
「愛とは何か」と。
ある人は、こう答えた。
「私があなたを好きって思う、とても純粋な気持ちよ」
じゃあどうして、その人はもうここには来ないのか。
好きで、純粋な気持ちはとても一過性のものなのか。
またある人はこう説教を垂れた。
「人は愛されるために生まれて来たのよ。あなたはもう知っているはず」
分からないから問いかける人間に、それは無いだろうと猫でも感じた。
愛されるために生まれて来たのなら、愛してほしくて身体を重ねる彼はどうなる。
愛されようと生きている生き様を否定して、そうして彼に何が残る。
いろんな人の愛を聞いて、結局わかることは彼が寂しい人間だということだけ。
寄ってきて、去られて。そうして彼も引きとめないのだから当然なのかもしれない。
でも、誰よりも純粋な好奇心で愛をさがしているのだと思った。
そうして、僕の寿命が近づいたとき、僕には決して『彼』を愛してあげられないと分かった―――。
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