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「―――はい、お疲れ様。今日の分ね」
「ありがとうございます」

ドロドロになった身体を綺麗にしてもらい、シャワーまで借りて、気がつけばどっぷり日が暮れていた。

現金手取り制らしく、一万円札の束が入った封筒を渡され、僕はそそくさと帰ろうとする。

「珠樹」

そうすると、稜さんに出口のところで声をかけられる。

何事かと思っていると、携帯を勝手に奪われてしまった。そのままあっという間に赤外線通信で登録してしまい、そのまま僕に返してくる。

「はい。また今度、一緒にご飯でも食べに行こう。また連絡するから出ろよ?」
「…あの、ありがとうございます」
「いいさ、久々に興奮したし」

屈託なくニカッと笑われ、僕は恥ずかしくてうつむく。『それは恥ずかしいのか』とさらに笑われ、ますます顔をあげづらくなってしまった。

「……大丈夫、オマエはすっごく可愛いよ。うまくいくといいな」

僕に何があったかなんて知っているような口ぶりで言われ、僕は小さくうなずく。みんな僕に突っ込んできたけど、僕とキスをしたのは稜さんだけだ。

そう思うと、稜さんが特別なように感じた。稜さんの言葉なら、素直に頷ける。

「…頑張りますね」

これで、最後にしよう。もう一度だけ好きだと言って、嫌な顔をされたらすっぱりあきらめよう。

「―――ただいま」

そう思いながら、一緒に住んでいる部屋を開ければ、すごく不機嫌そうな顔をした彼氏がいた。

これは、まずい、と思っていると、手の中にある封筒をひったくられる。

「―――本当に撮影いって来たんだ。気持ちわりぃなオマエはよっ!」

バシッと封筒を投げつけられ、僕は思わず顔の前に手をかざす。はらはらとお札が舞い落ちるのがスロウに映った。

「女だったらどんなに言われようが貞操は守るぞ?ま、尻軽女は知らないけどな―――オマエみたいなよ」
「うぅ―――っ」

壁に胸倉を掴まれながら押し付けられ、僕はポロポロと涙をこぼす。

「出ていけ。二度と顔見せるな。―――30分たってまだいたら蹴りだすからな」

そう言うと、彼は散らばったお札を踏みつけてさっさと出て行く。

「オマエみたいな汚いやつが部屋にいるなんて虫酸が走る――さっさとしろよ」

そういうと荒々しく扉を閉められ、僕はその場に座り込んだ。

――そうか、やっぱり僕は、ダメなんだ…っ

あれは冗談のつもりだったんだ。真に受けて、さらに嫌われて、どうしようもないね。

そんなんだから、僕は愛想を尽かされちゃうんだよね。

「……でも、これが、僕の選んだ道なんだ…」

彼の言うことを、拒否することなく従うことを選んだのは僕だ。僕が全部悪いんだ。

だったら速く出て行かなくちゃ。面影は残さないように、全部全部。

写真はもらって行ってもいいかな。できれば笑顔のヤツ。



―――そう思っても、僕の目からはダムが決壊したみたいに涙が溢れてきて、止まらなかった―――





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