晴陽
―――俺が考えていたのは、いつも君のことだけだった。
「…晴陽、ツラかせ」
ぶっきらぼうに呼ばれて、俺は頷く。陰でこそこそ『御愁傷さま』なんて聞こえるけど、俺はそんな風に考えたことは一度もない。
だって、千秋は特別だもの。
金色に染めた髪はまるで百獣の王のようだし、射るような視線は人をくぎ付けにする。
カリスマ性の塊のような男なんだ、千秋は。惹きつけられない人がいるなら会ってみたい。
そんな彼が世間一般のカテゴリーで不良であろうと関係ない。
俺たちは幼馴染で。自慢の幼馴染で。
俺の世界には、千秋しかいない。幼いころから降り積もった小さな感情が、俺を『恋』なんて言葉に納められないくらいの感情で甘く縛り付ける。
千秋が不良になったとき、本当を言えば俺もなりたかった。
だけど、どう考えても無理なのは自分が嫌というほど分かっていて。
だから、勉強した。運動も頑張った。
いつか、千秋が困った時に支えられるように。
いつか、千秋の隣に立ってケンカできるように。
今は無理でも、いつか。
千秋の好きなカスタードプリンの作り方だって、覚えた。
…それを使う機会は、一度も来なかったけど。
半ばあきらめていた時、千秋が声をかけてくれた。
嬉しい、嬉しい。
俺、どんなことだってできるよ。
だって、俺は千秋が好きだもの。大切だもの。
犯されている、と感じた時、さすがに怖かった。だけど、痛みより何より、千秋が俺を求めてくれたことがうれしかった。
どんな理由でも。
気持ちよくなりたいなら、俺を使って。
慣れないけど、痛いけど。
目一杯煽って、気持ちよくなってもらいたいから。
自分ではもうほとんど行為の内容は覚えていない。
ただそれだけが頭の中をぐるぐるして。
唯一自由を許された口が何を喋ったかはわからない。
だけど、目が覚めて。
千秋の腕の中にいたことが、辛かったのとか、痛かったのとか全部帳消しにした。
「………っ」
ぽたり、と涙があふれる。
ロボットみたい、人間じゃないみたい。
だって無表情だもの。
それでいい。俺の涙は、感情は、全部千秋のものだから。
心も体も、あげられるものは全部、千秋にあげるから―――。
「――――っ」
不意に、千秋の腕が持ち上がり、俺の頭を撫でる。
寝ぼけているのだろう。今まで相手にしてきた人、みんなにしてきたのかもしれない。
だけど、幸せすぎた。
幸せすぎだ―――
千秋が起きたら、一番に『おはよう』って言おう。
そして、また昔みたいに。
笑いあえたら、俺はそれでいい。
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