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そう言ってやれば、先輩の顔が凍りついた。

先輩の噂には事欠かない。

帰国子女で三ヶ国語を話し、大学は有名国立大学。両親は有名デザイナーと巨大企業グループの総帥で、かなりの金持ち。

オフィスの各階に恋人がキープされていて、要望があれば男でも女でも寝るし、ヤリチンでビッチ。


そして―――俺のことが好き。


いつからだったか、他の噂と比べてその噂はひそやかに、しかしまことしやかに囁かれ、俺の耳にも入っていた。

最初は嫉妬に狂った誰かが、彼女がいて安全パイの俺をあて馬にしたのかと思った。

だけど、この人のふとしたしぐさや表情から見抜けないほど、俺も鈍くなかっただけの話。


―――ぽたり、と先輩の目から涙が落ちた。

その涙が多くのことを物語っていて、俺は抱きしめたくなる。

行為を強要した罪悪感、嫉妬に駆られてらしくない発言をした後悔。そして―――俺への愛しさ。

気持ちが露見した事により、普段よりも分かりやすく、全身で愛を伝えてくる。

―――本当に、抱きしめたくなる。

「…先輩、ネクタイほどいてください」

俺がそういえば、涙を手でぬぐいながら先輩はイヤイヤをする。俺は彼にため息をつきながら本心を言った。

「ネクタイ取ってください。―――抱きしめられないじゃないですか」

俺がそういえば、先輩は驚いたように顔をあげた。涙で鼻の先まで真っ赤になっている彼は、震える腕でネクタイをほどいてくれる。

「―――やっとできた」

俺は腹筋の力で起き上がると、先輩を抱きしめる。先輩の身体は俺の腕に収まるようにできていると錯覚してしまいそうなほど、腕の中にすっぽりと収まった。

先輩の名前を呼びながら耳を舐めると、先輩は切なげに喘いだ。




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