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「風紀に書類を持っていく時にでも声をかけてみたらどうです?」
「そうだな…といいたいところだが、避けられるんだ」
「……。まぁ、すぐには無理かもしれませんね」
「もう少ししたら話せるだろうか」
「そうですね。僕からも吉原の様子を聞いてみますよ」
「助かる」

会長はそういうと、初めてほっとしたような笑みを浮かべた。

そんなに柔らかい表情もできたのか、とドキリとしてしまう。不自然に跳ねてしまった心臓に、僕はそっと胸を押さえた。

「ありがとう、相模(さがみ)」
「……いえいえ。会計も書記も心配していたので、少しでも元気が出たなら良かったです」
「そうか。あとで2人にもお礼を言っておこう」

会長はそういうと、お茶を飲み干してしまい立ち上がる。そのまま机に戻ろうとしていたので僕は咎めるように目を細めた。

「それがいいですよ。…あと、今日はもう仕事禁止です」
「なぜだ」
「さっきの話聞いてました?夜遅くまで会長が仕事していたらまた2人が心配しますよ」
「そうなのか」
「そうです」

会長は少し不満げにしたが、素直に僕の言葉を受け入れてくれて『じゃあそうしよう』と帰り支度を始めてくれた。

「相模は帰らないのか」
「僕はこの後担任に呼ばれているんでお先にどうぞ」
「そうか…じゃあ、また明日」

少し照れくさかったのか、はにかむようにして挨拶してきた会長に、僕の心臓はまたドキリとした。

少し放心しながら挨拶を返すと、ばたん、と扉が閉まった。

「……なんなんですか、あの会長は…」

不覚にも、可愛いと思ってしまった。僕より背が高くて、目つきも悪くてガタイもいいのに。

そんな自分の気持ちを鎮めるように、自分用に用意していたお茶に口をつける。

「っ!ぶはっ!」

そして、その苦さに驚く。とてもじゃないけど飲めるモノではない。

初めて淹れたため、茶葉の分量がおかしかったのだろうか。

―――でも、会長の湯のみにはもうお茶は残っていない。

「まさか…」

平気な顔をして、我慢して飲んでいたのだろうか。

そうに違いない、と思いいたって、僕はますます頭が上がらなくなる。

「本当に、不器用なんですね……」

呆れにも似た、苦笑が漏れる。

それでも、僕の中で会長の評価は、随分と好ましいモノに変わっていったのだった―――





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