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「他に誰がいる」
ふてぶてしいくらいの態度で、会長は堂々と言い返す。
……あぁ、ますます面倒なことになった…
面倒が重なりすぎて、だんだん頭が痛くなってきた。僕は多分目の前にいるのが会長じゃなかったら頭を抱えていたことだろう。
相談役になってしまった、よりにもよって会長の。
「…正直、吉原への接し方は正解では無かったと思います」
「そうか…でも、心配なんだ」
「吉原がですか?」
「もちろんだ」
今度は正直驚いた。
会長への挨拶もなく、生徒会室への連絡も人づて。
不義理な離反、とも言える方法でいなくなってしまった吉原を会長がこんなにも気にかけているとは思っていなかった。
いなくなって寂しい、どころの話ではなかったらしい。
「…吉原が風紀に行ったことで、吉原を『裏切り者だ』という輩が出ているらしい。もし、そいつらが間違いでも吉原に手を出したらと思うと…」
「会長……」
「教えてくれ、俺はどうしたら吉原の助けになれるんだ?」
こんなに情にあつい人だとは思っていなかった。僕はつまんでいたお菓子をごくりと飲み込むと、言葉を選んで口に出す。
「そうですね…もし、次にあったら吉原を褒めてあげたらいいと思います」
「褒める?」
「そうです。あなたからしたら吉原は合格点をとれなかったかもしれない。でも、僕たちから見たら吉原はとても優秀だった。慣れない環境に入学して、必死で頑張っていたと思います。そのことを、認めてあげてください」
「なるほど……」
メモでも取り出しそうな勢いで、真剣に僕の話を聞く会長に、会長の認識を改めさせられる。
この人、すごく不器用なんだ。
吉原のことに対しても、吉原が嫌いで八つ当たりしていた訳ではない。そこに深い愛情があったのだ。
怒鳴るだけの鬼、ということではなく、自分なりに考えた結果その方法しかなかったのだろう。
そんな奥底にある温かい気持ちを、どうしてもうまく出せないでいるのだろう。
そう思うと、会長に対してもう少し優しくしてあげよう、という気持ちになってしまった。
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