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―――吉原の引きぬきから3日が経った。
廊下を風紀委員長と連れ立って歩く吉原を見た生徒たちは驚いていたが、情報が回ってさらに混乱しているようだった。
「そんな……吉原さまが?」
「生徒会と風紀は仲がよろしくないことで有名だったのに…」
「でも…吉原さま、風紀のお姿も素敵……っ」
吉原に対する評価は、好意半分、悪意半分だった。
生徒会の肩を持つ生徒には『途中で離反した裏切り者』と思われたし、風紀や吉原の肩を持つ生徒には『正しい判断だ』と受け入れられた。
当然生徒会を見る目も少し変化があったが、もとより結束の固い親衛隊を各個人がそれぞれ持っているため、それほど目に見た変化はなく普段通りの生活をおくれている。
会長の言うとおり、『これからの仕事ぶりに期待』という意見の生徒がほとんどなのだろう。
そして吉原のいなくなった生徒会室は、静かになった。
別に吉原がムードメーカーで、いないと会話が続かないという意味ではない。
もはや生徒会の風物詩となりつつあった、怒鳴る会長に叱られる補佐という関係がなくなったため、会長が怒鳴らなくなったからだ。
元々できる男のため、会長は補佐がいなくても上手く仕事を回している。
それほど吉原がとるに足らない存在だった、と意地悪な言い方をすることもできるが、会長が有能すぎる、というのが本当のところだろう。
会長の前では、どんなに優秀な人間も取るに足らない人間になってしまう。だから僕たちも素直に従い、言われた仕事をこなすだけだ。
―――そう、僕たちに変化はない。元の関係に戻っただけなのに。
「…会長、元気ないな」
「そうですね……」
「やっぱりなんだかんだで寂しいのかなぁ〜」
上から硬派書記の先輩、僕、会計の言葉である。
会長は以前にもまして仕事人間になった気がする。誰よりも早く生徒会室に来て、一番遅くに仕事を終える。
それは決して会長が無能だからではなく、それだけ会長の仕事量が多いからだ。
それと、生徒会特権を使わずに授業に真面目に出ているからだろう。
「会長って教室でもあんな感じなの?」
「はぁ…まぁそうですね」
「本当にいつ休んでるんだか…いつか身体を壊さないといいが」
書記の先輩は心配そうに会長を見つめていて、会計も不安げだ。
それだけ危ういって、気づいているんだろうか会長は……
黙々と書類をこなす会長を見ながら内心ため息をつく。正直、吉原1人にここまで心を乱されているとは思っていなかった。
「そうですね…僕からも言ってみます」
「そうか」
「お願いしてもいい〜?」
心配そうに言う2人に頷いて、僕は『面倒なことになったなぁ』と心の中で思ったのだった……
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