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そんな日々に変化が訪れたのはそれから数カ月後のことだった。
吉原が生徒会室に顔を出さなくなった。あの怒鳴られ方を目の当たりにしているからいつかこんな日が来る気がしていたのだ。
むしろ、『よく耐えてたな』と吉原に感心するほどだった。
「最近吉原来ませんね」
「しょうがねえよ。補佐は強制じゃないんだし、別に学業優先したって変じゃねえよ」
何でもないようにコーヒーをすする会長に、内心『ウソツキ』と思う。
コーヒーを何杯飲めば気が済むというのだろうか、さっきから気がそぞろなのは見て取れる。
―――動揺してるくせに、素直じゃないヤツ。
怒鳴らなければよかったのに、と思ったけどやっぱり口に出さないでいた。
「会長〜、伝言〜」
そんなとき、チャラい会計のゆるい声が聞こえて、俺たちは入口に顔を向けた。
「吉原から〜『風紀委員に引き抜かれました。理事長も知っているので大丈夫です』だって〜」
「よりにもよって風紀…ですか…!?」
僕は驚きに目を丸くする。風紀委員は生徒会と同程度の権力を持っていて、僕たちの宿敵だ。
そんな相手に吉原をとられた、とあって心情は穏やかではない。
「―――そうか」
それなのに、当の会長はそうつぶやいたっきりだった。僕も会計も肩すかしをくらったような形になって、慌てて言葉を足す。
「でも、いいの?理事長に小言言われないかなぁ〜?」
「そもそも吉原が生徒会に来た理由は『吉原の保護』だ。同程度の権力があって庇護も手厚い風紀なら問題ないと理事長も考えたんだろう」
「でもさ〜、俺たちの評判下がらない〜?」
「風紀の方が水が合うと、当の吉原が判断したならその方がいいさ。生徒への評判はこれからの働きぶりでいくらでも回復できる」
いたって冷静で、いたってまともな発言だった。
さっきまで気もそぞろだったヤツの言葉だとはとても思えない。
それでも―――僕は見てしまった。
会長がテーブルの下で手をギュッと握りしめたこと。
会計が吉原のことを口にしたとき、『傷ついた』って顔になったこと。
―――はぁ、本当に面倒くさい奴だなぁ…
後悔するくらいなら初めからしなきゃいいのに。
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