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僕はきっと、ここでの生活に不満を抱くこともなく、かといって一生ものの親友を手に入れることもなく。
そうやって、何となく生きていくんだろうなと思っていた。
だから―――アイツが苦手だった。
「吉原ぁー!!何でここ数字が違うんだよ!」
「ひぃぃ!すみません……っ!」
真向かいの机に座り、自分の補佐を怒鳴りつける生徒会長、もとい同級生の坂本。僕はそれを目の前で見せつけられて内心げんなりしていた。
しかし、それ以上に至近距離で怒鳴られている1年補佐の吉原はたまったものではないのだろう。
かれこれ半年以上繰り返されているというのに、相変わらず紙のように真っ白になりながら罵声を受け止めていた。
……あーあ、可哀そう…
そう思いながらも助けないのは、僕には関係ない事だからだ。ちょっとうるさくて集中を切らされることに苛立ちはしても、2年間我慢すればいい話だと思っている。
俺は坂本とも、吉原とも仲良くする気はなかったが、関係を悪くするつもりもなかった。
ただ、将来会社を継いだとき、どんな縁があるか分からない。
だから波風立てないに越したことはない、その程度の気持ちしかない。
でもまぁ吉原には内心恨まれてそうだよなぁ、と思いながら、僕は泣きそうになっている後輩の後ろ頭を眺めた。
『―――今日から会長補佐をさせていただくことになりました、吉原です』
そう言ってやってきた吉原は、高校からの編入生だ。普通ならこの学園の特殊さも理解できないひよっこ外部生を、わざわざ会長の補佐につけたりなんかしない。
吉原が来た理由は至極簡単、親が理事長であることと、とても愛らしい見た目をしているからだ。
性欲を持て余した人もどきゴリラどもには格好の餌になるだろうし、万が一そうなったら理事長が黙ってはいない。
そのため、異例の措置で会長補佐をすることになったのだ。
ただ、理事長も保護名目で坂本につけた時は予想もしなかっただろう。坂本が鬼のようになってビシバシ息子をシゴきまくる様を。
半年たった今でも、吉原は相変わらず怒鳴られている。
仕事はきちんとこなせるようになってきているのに、坂本の合格ラインが高すぎるのか、吉原は泣かない日の方が少なかった。
……坂本って、本当に馬鹿だよな。わざわざ自分から波風立てなくてもいいのに…。
坂本は出来る奴だ。実際、補佐なんていなくても業務に問題ないのに。わざわざ仕事をふっては怒鳴りを繰り返し。
いい加減1人でした方がいいと学習すればいいのに。
そんな風に思いながら、僕はこっそり隠し持っていた耳栓を耳に装着し、自分の仕事をこなすことに専念したのだった……。
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