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リビングに現れた円さんに、自分の顔を見られたくなくてぎゅっと抱きつく。

「熱烈歓迎だね、寂しかった?」

円さんは、すぐに背中に腕をまわして抱きしめ返してくれた。俺は質問に答えるようにもぞりと頷く。

「ごめんね、急いだつもりだったんだけど」
「いいよ。ねぇ円さん……合意なら、抱いてくれる?」

俺は円さんを見上げながら、そう尋ねていた。

忘れたい、何もかも。こんなに胸が苦しくて、辛いんだ。誰か楽にして欲しい。

円さんなら、何でも願いを叶えてくれる。

あの快感で、俺を翻弄してくれる。

そんな期待に満ちた、ずるい質問だった。

ずるいからこそ、大人の円さんには伝わってしまった。

「……セナ君、それは出来ないよ」
「っ、なんで、」
「俺はセナ君を見てるよ。―――何かあったんでしょう?それをしてしまったら、セナ君はもう前を向けなくなるよ」

円さんは俺を抱きしめながら、宥めるように話し続ける。

「俺はいくらでもセナ君の逃げ場所になれるよ。傷ついたら戻ってきていいし、甘えたかったら嫌になるほど甘やかしてあげる。それでも、今のセナ君を受け入れたら、未来のセナ君はきっと後悔する」

ふいに一筋、俺の目から涙が流れた。

それは円さんのトレンチコートに吸収され、誰にも気づかれないままそっと消えていく。

「セナ君がちゃんと強いこと俺は知ってるよ。今まで一杯我慢してたね。俺の前では全部さらけ出していいから―――向き合うことを恐れないで」

一筋伝った涙は幾重にも重なり、ぽろぽろと涙が溢れてくる。

どこまで知っているのだろう、この人は。

俺が変わってしまったのは、傷つくのが怖いからだ。

お母さんに捨てられることが怖くて、真下の家族からも呆れられるのが怖くて。

結局、どちらも突き放すことでしか自分を守れなかった。

愛情が俺を苦しめたって、深くかかわらなければこれ以上苦しむことはない。

捨てられたとしても『しょうがない』でごまかせる。

そんな風に逃げて、殻に閉じこもって。





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