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「ごめん、真下……っ」
俺はふらふらとソファーに行き、自分の顔を覆いながら座り込んだ。
どうして、あんないい方しかできなかったのだろう。
でも、真下が『家族』だという度、心が引きさかれるのだ。
真下と家族になったら、とても幸せなのかもしれない。
―――それでも、俺の家はあの静かな1人暮らしの家で、お母さんはテレビの中の人なのだ。
いい子になりたくて生きてた。そういう意味で、お母さんは絶対だ。お母さんに好かれたくて、俺のすべてはそこから始まっている。
たかが紙と血の関係。されど、紙と血の関係。
真下が家族だと言ってくれるたび、お母さんとの関係が薄まる気がする。
―――もし本当に真下と家族になってしまったら、俺はお母さんに捨てられるんじゃないだろうか。
成長して手がかからなくなるにつれて、お母さんは家に来なくなる。きっと、真下の家に引き取られた瞬間、俺はお母さんと二度と会えなくなるのだろう。
―――いやだ、捨てられたくない。どうやったらお母さんは家に来てくれる?
そんな不安の中で真下の家族の優しさに触れるたび、やっぱり俺には不相応なものだと感じる。
温かい家、温かい家族――それらは、真下のものだ。
俺のために用意されたものじゃない。俺は参加させてもらえているだけだ。
俺は、真下の家族にはなれない。
だから、名前で呼べなくなった。名字で呼ぶことで、真下とは違う家族なのだと、自ら線引きをした。
「ごめん真下、ごめん―――」
変わってしまったのは、俺の方。身体が大きくなるにつれて開いていくお母さんとの距離に焦燥を感じ、真下に冷たくしてしまった。
ずっと、変わらず優しい言葉をかけていてくれたのに。
そんな自己嫌悪感ばかりが募っているとき、庭の方で車が停まる音がした。程なくして、玄関の扉が開く音がする。
「……ただいまー」
「っ、おかえり」
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