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「じゃ、今度こそ行ってきます」
靴を履き終えた円さんは俺の額にキスをしてさわやかに笑う。
「……行ってらっしゃい」
「ふふ、お見送り嬉しいなぁ」
「だから調子のんなって!」
急に気恥ずかしくなって、俺は真っ赤になりながら言い返す。笑いながら玄関を出て、車に乗り込んだ円さんの姿が見えなくなってから、俺はリビングに戻った。
円さんのいないこの部屋は、とても静かだ。
さっきまでぬくもりがあったからこそ、急に不安になってきて、俺はごまかすようにリビングのテレビをつけた。
時間帯的に、今は夕方のニュースしかしていない。お正月だろうがお構いなしなニュースに、俺はぼんやりとチャンネルを回した。
『さて、お正月と言えば芸能人のバカンスですよね!現在もたくさんの有名人の皆さんが海外に飛び立っています!』
そんな中、空港からの中継を見つけて、俺はふとチャンネルを止める。
―――あ、お母さん……
空港でアナウンサーの人が喋っている後ろを、若名優衣子が通り過ぎる。2,3人の女優さんと、知り合いのスタッフさんらしき人たちとつれだっていた。
「今年はどこに行くのかなぁ…」
バカンスに行くというのも、聞いていなかった。
幼いころは国内のマイナー観光スポットとかに一緒に連れて行ってもらっていたが、部活や学校があるので最近は行けていなかった。
行けていなかったが、連絡すらもらえなくなった事実に、心臓がぎゅっとなった。
「俺とお母さんは、血と紙きれのみの関係、なんてね」
自虐的な言葉を吐いてごまかそうとしても、心の中は黒く染まっていく。
母親のことを知りたいというのは、出過ぎた感情なのだろうか。
昔はそんなこと考えもしなかったのに、大人になればなるほど我儘になる自分に嫌気がさす。
もやもやした気持ちを捨てたくて、俺はチャンネルを切り替えた。
―――ピピッ、ピピッ
そんなとき、マナーモードを解除した俺の携帯が鳴りだした。見ると真下からで、俺は嫌な予感がしながらも電話をとる。
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