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『いいじゃん!俺たちは家族だよ!』
真下の笑顔は、今でも俺の中で光り輝いている。
不安とプレッシャーの中で生活していた俺にとって、真下の下心の無い友情はとても温かかった。
『うん、ありがとう。勇介(ゆうすけ)大好き』
でも、どうしてだろう。以前は呼べていたのに、俺は真下を名前で呼べなくなった。
気が付いたら、真下になっていた。それを真下は咎めたりはしなかったが、何か壁のようなものができてしまった感じは否めない。
真下は変わっていない。今でも家族だと頷いてくれるし、何でも気にかけて俺を大事にしてくれている。
―――そう、変わってしまったのは、俺の方。
円さんの家では寝てばかりだな、そう思いながらも目を開けると、もう日が暮れようとしていた。
「円さん……?」
俺に膝を貸してくれていた円さんはどこにもいなくて、俺はソファーから身体を起こして当たりを見回す。
すると、2階につながる階段からパタパタと円さんがおりてきて、驚いたように俺を見た。
「あ、起きた?ごめんね、グラタン作ろうと思ったんだけど牛乳切らしててさ、今から買ってくるね」
「あ、うん……」
円さんは紺色のトレンチコートを着込み、車のキーを持って出かける気満々だった。俺が頷くと、円さんは俺の頭を撫でて『行ってきます』といった。
「セナ君?」
「玄関まで行く」
「お見送り?嬉しいなぁ」
「調子のんな」
実際離れがたくてお見送りがしたかったのだが、円さんに言われると素直に返せない。
むっとしながら玄関に向かうと、円さんも嬉しそうについてきた。
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