1




『いいじゃん!俺たちは家族だよ!』

真下の笑顔は、今でも俺の中で光り輝いている。

不安とプレッシャーの中で生活していた俺にとって、真下の下心の無い友情はとても温かかった。

『うん、ありがとう。勇介(ゆうすけ)大好き』

でも、どうしてだろう。以前は呼べていたのに、俺は真下を名前で呼べなくなった。

気が付いたら、真下になっていた。それを真下は咎めたりはしなかったが、何か壁のようなものができてしまった感じは否めない。

真下は変わっていない。今でも家族だと頷いてくれるし、何でも気にかけて俺を大事にしてくれている。

―――そう、変わってしまったのは、俺の方。




円さんの家では寝てばかりだな、そう思いながらも目を開けると、もう日が暮れようとしていた。

「円さん……?」

俺に膝を貸してくれていた円さんはどこにもいなくて、俺はソファーから身体を起こして当たりを見回す。

すると、2階につながる階段からパタパタと円さんがおりてきて、驚いたように俺を見た。

「あ、起きた?ごめんね、グラタン作ろうと思ったんだけど牛乳切らしててさ、今から買ってくるね」
「あ、うん……」

円さんは紺色のトレンチコートを着込み、車のキーを持って出かける気満々だった。俺が頷くと、円さんは俺の頭を撫でて『行ってきます』といった。

「セナ君?」
「玄関まで行く」
「お見送り?嬉しいなぁ」
「調子のんな」

実際離れがたくてお見送りがしたかったのだが、円さんに言われると素直に返せない。

むっとしながら玄関に向かうと、円さんも嬉しそうについてきた。





[ 29/37 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]


top


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -