8




知らないから、知りたいって思う。それは俺も円さんを知りたいって感じているから。

結構本気で言ったのに、円さんにはフォローにしか聞こえなかったらしい。『ふふ、ありがとう』と微笑まれてそれで終わりだった。

「セナ君は、明日から何するの?」
「明日…?」

俺は日付を思い出しながら考える。

「明日から、部活だ」
「本当?何してるの?」
「弓道」
「かっこいいね!いいなぁ、見てみたいなぁ」
「本当?」

興味を持ってくれたことが嬉しかったのに、俺がそういうと円さんは『いや!ストーカーしたりしないよ!』と慌てて付け加えてきた。

その誤解が面白くて、俺はくすくす笑う。

「もうそんなに円さん疑ってないよ」
「うそ、本当に?」
「うん」

ごろりと寝がえりを打って、円さんを見上げる。円さんと目があって、俺はいたずらっぽくほほ笑んだ。

「…どうしよう、キスしたい。セナ君、いい?」
「今回だけな」

俺はまんざらでもなかったけど、わざとそっけなく答えた。

真っ赤になった円さんの顔が近づいてくる。俺は円さんの腕を引き寄せ、少しだけ首をあげて円さんとキスをした。

初めて、円さんとキスをした。無理矢理でなく、合意のキス。

快感に翻弄されることもなく、自分の意思でしたキス。お互いの体勢はとても苦しいのに、俺は夢中で円さんと唇を重ねた。

「円さんの唇、味噌汁味だね」
「それはセナ君もだよ。…はぁ、理性試されるなぁ」
「無理強いはしないんだろ?」

円さんの本音に、俺はいたずらっぽく笑って答える。円さんは名残惜しそうにしていたけど、結局膝枕を続行してくれた。

「今日の夕飯何がいい?」
「グラタン」
「ふふ、了解。―――ご飯食べたら、帰りは神社まで車で送るね」
「……分かった」

1日だけ、と言っていたのに円さんから別れの言葉が出ると名残惜しい。

もう二度と会えなくなるのだろうか、円さんはどうするんだろう―――

「……帰りに、少し海見たい」

もっと一緒にいたい、という言葉は言えず、俺はポツリとそうつぶやく。すると、円さんは『了解』とまた笑った。

「夜の海もいいよね。楽しみだなぁ」
「うん……俺見たことないんだよね」
「そうなんだ。じゃあ、エスコート頑張らせてもらおうかな」

円さんのそんな言葉を聞いていると、さっきまでなりをひそめていた睡魔がまたやってくる。

「…無理して起こしちゃったね。寝ていいよ」

俺のそんなわずかな変化を見取って、円さんは背中を軽く叩いてくれる。それだけでぐんと瞼が重くなって、俺はそっと目を閉じた。

「ん……お休み」

最後の方はちゃんと言えていただろうか。

円さんに向かってもごもごと口の中で呟きながら、俺は睡魔に身をゆだねたのだった―――





[ 28/37 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]


top


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -