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知らないから、知りたいって思う。それは俺も円さんを知りたいって感じているから。
結構本気で言ったのに、円さんにはフォローにしか聞こえなかったらしい。『ふふ、ありがとう』と微笑まれてそれで終わりだった。
「セナ君は、明日から何するの?」
「明日…?」
俺は日付を思い出しながら考える。
「明日から、部活だ」
「本当?何してるの?」
「弓道」
「かっこいいね!いいなぁ、見てみたいなぁ」
「本当?」
興味を持ってくれたことが嬉しかったのに、俺がそういうと円さんは『いや!ストーカーしたりしないよ!』と慌てて付け加えてきた。
その誤解が面白くて、俺はくすくす笑う。
「もうそんなに円さん疑ってないよ」
「うそ、本当に?」
「うん」
ごろりと寝がえりを打って、円さんを見上げる。円さんと目があって、俺はいたずらっぽくほほ笑んだ。
「…どうしよう、キスしたい。セナ君、いい?」
「今回だけな」
俺はまんざらでもなかったけど、わざとそっけなく答えた。
真っ赤になった円さんの顔が近づいてくる。俺は円さんの腕を引き寄せ、少しだけ首をあげて円さんとキスをした。
初めて、円さんとキスをした。無理矢理でなく、合意のキス。
快感に翻弄されることもなく、自分の意思でしたキス。お互いの体勢はとても苦しいのに、俺は夢中で円さんと唇を重ねた。
「円さんの唇、味噌汁味だね」
「それはセナ君もだよ。…はぁ、理性試されるなぁ」
「無理強いはしないんだろ?」
円さんの本音に、俺はいたずらっぽく笑って答える。円さんは名残惜しそうにしていたけど、結局膝枕を続行してくれた。
「今日の夕飯何がいい?」
「グラタン」
「ふふ、了解。―――ご飯食べたら、帰りは神社まで車で送るね」
「……分かった」
1日だけ、と言っていたのに円さんから別れの言葉が出ると名残惜しい。
もう二度と会えなくなるのだろうか、円さんはどうするんだろう―――
「……帰りに、少し海見たい」
もっと一緒にいたい、という言葉は言えず、俺はポツリとそうつぶやく。すると、円さんは『了解』とまた笑った。
「夜の海もいいよね。楽しみだなぁ」
「うん……俺見たことないんだよね」
「そうなんだ。じゃあ、エスコート頑張らせてもらおうかな」
円さんのそんな言葉を聞いていると、さっきまでなりをひそめていた睡魔がまたやってくる。
「…無理して起こしちゃったね。寝ていいよ」
俺のそんなわずかな変化を見取って、円さんは背中を軽く叩いてくれる。それだけでぐんと瞼が重くなって、俺はそっと目を閉じた。
「ん……お休み」
最後の方はちゃんと言えていただろうか。
円さんに向かってもごもごと口の中で呟きながら、俺は睡魔に身をゆだねたのだった―――
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