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―――それから数時間して、昼食の時間になった時。

「藤川、一緒にメシ食おうぜ」

教科書をしまっていると栗林に隣からそう言われ、俺は戸惑いながらも頷く。栗林の笑顔は頬を少しだけあげる笑顔で、なんというか艶がある。

綺麗なバラにはとげがある、とかそんな妖艶な表現が思い浮かんだものの、拒否する理由もないので俺は教科書をしまうと向き直った。

「机くっつけた方がいいか?」
「いや、めんどいし椅子だけでいい。もう少し他のヤツも呼んでいい?」
「俺に遠慮しなくていい。普段そいつらと食べてるんだろ?」
「そうなんだよねー」

栗林はそういうと、クラスのメンバーの数人に声をかけた。俺と栗林の会話の様子をずっとうかがっていたようで、栗林に呼ばれた瞬間どこかホッとしたようだった。

「藤川は弁当?」
「あぁ、今日は朝時間があったからな」
「ふーん、自分で作ってるんだ」
「……栗林は弁当か?」

栗林にそう尋ねると、栗林は曖昧な笑みを浮かべた。さっきの笑みよりも毒の要素が強い、もっと妖艶な笑みで。

「いや。俺はパン。―――翼(つばさー)、いつものよろしくー」

栗林がそういったかと思うと、クラスの端の方から『はーい』と返事が返ってきた。

おそらく彼が翼なのだろう、と声のした方をうかがう。

栗林の声に立ちあがった彼は、ひょろりと背の高い、なんとも気弱そうな顔立ちの学生だった。

たれ気味の目と、深いえくぼを刻む頬。邪魔にならないようにそろえられた髪の毛。全体的に顔のバランスは悪くないのに、『頼りない』という印象が先に立ってしまう。

……多分、優しい奴なんだろうけどな……

そんな風に感慨深げに彼を観察していると、教室のいたるところから『あ、おれも』という声が上がる。

「俺、カツサンドとコーヒー」
「サンドイッチ二つ」
「じゃあ俺は弁当がいいな。適当に安いの買ってきて」
「はーい」
「あとはー」





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