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最初は、成績を上げようと『一緒に勉強をしよう』、『一緒に塾に行こう』と翼を誘ったらしい。しかし、翼からのらりくらりとかわされ、次第に苛立ちが募ったそうだ。
「『なんで勉強しないの?』、『どうして怠けちゃうの?』って思い始めたんだ。―――そのうち、金曜日のことも抵抗感がなくなっていった。『勉強しなかったなら当然だ』、『なんで勉強しないんだ』って内心馬鹿にさえしてた」
金曜日は積極的に参加しなかったが、呼ばれれば応じた。そうやっていた時―――自分が守られていることに、気付いたのだという。
「……一度、赤点とったことあるんだ。前日から熱が出て、復習も不十分。熱が出ながら受けた試験は散々だったよ」
熱に浮かされながら、解けない問題を前に指先から冷えていくようだった。この冷たさが、熱による寒気からくるものなのか、精神的なものかすら分からなかった。
「当然、僕が最下位だ。次の制裁対象は、僕だ――――そう思ってたのに、その日の最下位も、翼だった」
そうして、気付いた。このクラスのからくりに。
絶対に自分たちは制裁対象にならない。篠と―――翼がいるから。
「それからはもう後悔の嵐だよ。翼は僕と2人きりにはなってくれない、篠も、どんなに質問してもこたえてくれない。―――謝ることも、もう一度、友達をやり直すこともできないんだ」
三間の声が震えていることに気が付き顔をあげれば、三間は涙を浮かべていた。
俺は『独り言』に何も返せず、三間の頭を撫でる。
「僕は2人みたいに強くないんだ。だからっ、―――いつも『こんなの、早くおわれ』って思ってる。…そんな僕が、2人とまた友達になれるわけ、ないんだ」
だって、2人は先に行ってしまう、自分を置いていってしまう。
ずっと対等だと思っていた中学時代も、実は自分だけがそう思っていたのかもしれない。
そんな風に、三間はずっと考えていたのだろうか。
ずっと、1人で―――
「―――大事な奴だから、守りたいって思うこともあるんだよ」
つい、我慢できなくなって口を開いてしまった。まぁ仕方ないか、と思いつつ三間の頭を撫でながら続ける。
「一緒に笑いあいたいから、我慢することもある。相手を思いやるから、苦しいことも耐えられる。―――三間だって、そうだろ?」
誰にも言えない秘密を抱え、苦悩し、そして―――どうすればいいのか、ずっと考えていた。
どうすれば2人ばかりに負担を強いなくて済むのか。どうやったら2人を幸せにできるのか。
考えて、考えて―――自分の無力さに、涙しているのだ。
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