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翼か?と思って顔をあげたが、そこにいたのは三間だった。三間も、俺を見て驚いたように目を丸くしている。
三間はクラスメイトの目を気にしているのか、誰も周りにいないことを確認すると、こっそりと図書室に入ってくる。
確かに俺といるところを見られたらまずいよな、と思いつつ、俺は三間に声をかけた。
「―――翼に用があったのか?残念だが、アイツは今日来ていない」
三間が俺に用事がある訳が無いので、翼の情報をつたえる。すると、三間はあからさまにがっかりしたように肩を落とした。
「やっぱり、避けられてるのかな…」
それに関しては、俺は何も言えない。
翼はああいう奴だし、きっと昨日の三間のことも理解しているのだろう。
先見して、三間が自分を尋ねていることを予測している可能性は高い。そして、『それが分かっているからこそ』避けていることは十分に考えられた。
「―――今日は来るか分からないが、塾が無いならダメもとで待ってみたらどうだ?」
そう思案しつつも、しおしおと枯れかけの植物のようになってしまった三間が可哀そうになってしまう。俺は、翼のことに対しての明言を避けつつ提案してみた。
「……待つだけ、だからね」
意外にも、三間はあっさりうなずき、あまつさえ俺の隣に腰かけた。俺の手元を覗き込んで『ノートきたなっ』と呟いている。
「…三間、翼に謝りでもするのか?」
シャープペンシルを動かしつつ、三間に問いかける。すると、三間は困ったように笑った。
「……分かってるよ、ムシがいいって。だから、翼も避けるんだよね。でも、でも…僕は、翼に何度も救われた。ずっと言えなかったけど、感謝しているんだ」
三間はそういうと、『これは僕の独り言だから、聞かなくていいよ』と前置きをして、再び口を開いた。
「…僕と翼と篠は、中等部でも3年間同じクラスだったんだ。中等部は寮に入るのが強制じゃないし、高等部ほど受験が差し迫ってないから、わりとゆるいところも多かったな」
3人は3年間同じクラスで、必然的に仲良くなっていったという。
全く趣味もタイプも違っていたが、お互いがお互いを尊重して、いい関係だったと三間は笑った。
「…高等部もさ、そんな中等部の気分が抜けなくて。―――僕、最初は勉強を怠けちゃったんだ。そしたら、すぐに篠に怒られたな。『できるのにもったいないことするな』って」
どんなに教師が口を酸っぱくして言ったところで、受験なんて、所詮は3年後の話だ。
どうしても実感がわかないものだが、クラスメイトからそんな言葉が出てくるのは、『暗黙のルール』というヤツの効果なのだろう。
「あのルール、嫌でも身に入るよね?僕も、必死で勉強したさ。でも、いつも最下位は翼で―――友達として、本当に悲しかった。でも、だんだん翼を庇う感情が麻痺していくんだ」
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