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「―――生きてる?」

連れて行かれ、リンチをされた後。すっかり日が落ちてしまった寮の裏庭に、俺は仰向けで倒れていた。

派手に殴られたせいで、少し意識を失っていたかもしれない。いまいち頭が働かず、ぼーっとしていると上から翼が俺の顔を覗き込んできた。

「なんとか生きてる…」
「その調子だと、元気そうだね」

いたるところで悲鳴を上げる身体に鞭をうちつつ、起き上がっていると翼はそんな薄情なことを言う。

思わず翼を見上げると、翼はいたずらっぽく笑った。

「わざわざ冷やかしに来たわけじゃないよ。ほら」

翼はそういうと、俺に紙袋を差し出して来た。その中には、シップ、絆創膏、痛み止めが山のように入っている。

「俺のお下がりだけど、もう俺は必要ないみたいだし、あげるよ」

塾に行かないなら、なかなか外出して買い足す機会も無いでしょ?と付けくわえながら、慣れたしぐさで中のものを広げ始める。

「初回サービスで、背中だけはってあげる」
「…どうも」

全部貼る、と言わないあたり、なかなか強かな奴だ。2-Cで一番侮れないのは実は翼なんだろうな、と思いながらも、大人しく甘えておく。

「俺は、中立だよ」

大人しく湿布を貼ってもらっていると、翼がそんなことを言いだした。俺は、『今更何だ?』と内心首をかしげつつも、大人しく続きを待つ。

「でも、なんでか廉はつい助けちゃうんだ。―――ほっとけない、っていうのが正しいかな?廉の前だと、自分の感情を抑えられないんだ」

不思議だよね、なんて人ごとのように言いながら、翼は相変わらず治療を続けてくれている。俺に助言を求める、というより独り言のようだったので、俺も何も言わないでいた。

「自分でも驚いてるんだ。でも―――廉の性格が、そうさせるのかもね」

翼はそういうと、俺を後ろから抱き込んだ。突然のことに目を丸くしていると、翼は一瞬で離れてしまう。

「だから、廉は嫌いじゃないよ。むしろ、好きかもしれない」

何度も聞いた、翼の嫌いじゃない。だけど、今日の翼は何か吹っ切れたようで―――とても、嬉しそうに見えた。

「こんな気持ちにさせるのは、廉と、篠だけだよ」

翼のような中立を保ちたがる、悪く言えば無関心なヤツをやる気にさせる、そんな力が2人はあるのだと、翼は言う。

「―――つまり、似た者同士だっていいたいのか」
「ふふ、そうそう」

俺が不満げに口を出せば、翼はおかしそうに笑う。

「だから、とても楽しみなんだ。2人がこれからクラスをどう導くのか。―――だから、簡単に折れないで欲しいんだ」

翼はそういい残して、俺のもとから立ち去る。来た時と同じように、あっさりと立ち去ってしまい、俺は拍子抜けした。

「本当に、読めない奴だ…」

翼が貼ってくれたシップの残骸を片付けながら、1人呟く。

正直、読めない。だけど、行動だけなら感謝できることの方が多い。手の届きにくい背中を貼ってくれたおかげで、今晩は痛みにうめくことも無く、なんとかなりそうだ。

―――これから、きっと毎日続くのだろうけど。

でも、自分が選んだ道だ。後悔もない。あとは―――タイムリミットの卒業まで、精一杯自分の気持ちを出していくだけだ。

―――かくして、本格的な俺とクラスメイトとの衝突劇が幕を開けたのだった。





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