12
俺は翼に背を向けると、そのまま図書室をあとにする。
図書室を右に曲がると、中庭を通ることになる。この道は寮に対して少し遠回りだが、隠れる場所も多く運次第では無事にたどり着けるかもしれない。
―――本当、不思議な奴だ。
翼の顔を思い浮かべながら思う。優しい笑顔で、全てを見守ろうとする。母親のような愛情を浮かべているのではない、ただ事実を記録するかのような視点をもつ男だ。
今までに出会ったことのないタイプで、俺は戸惑いを隠せないでいた。
そんな風に翼のことを考えながらも、足をどんどん進めて行く。夕方の中庭は薄暗く、息を殺して進めばクラスの奴らと鉢合わせすることも無かった。
このまま順調にいけば帰れる――――そう思った時、目の前に人が現れた。
「な―――――」
「通さないよ、藤川くん」
目の前にいたのは、もっさりした見た目に地味な顔立ちをしたクラスメイト―――確か、三間(みつま)という奴だ。
黒ぶち眼鏡をかけ、おおよそ運動の得意そうな見た目ではないが、俺の行動を予測してここに待ち伏せていたらしい。
「……三間だっけ?そう簡単には通してくれないよな?」
三間は地味な見た目だが、確か一番栗林と仲がいい。昼食の時も栗林の隣によく座っていたし、休み時間でもよく話していた。
そんな奴が―――俺を見つけて何もしないわけがない。
三間が仲間を呼ばないかをけん制しつつ、俺は何とか逃げ道がないか必死で探す。
三間の身体能力は特別高くない。一瞬の隙をつけばまくことは簡単だろう。しかし、三間も俺を観察しているため、全く隙が無い。
どうしようか、と思案していると、三間が口を開いた。
「――――ねぇ、なんでこんなことするの?」
こんなこと、がどれを指しているのか分からなかったため、俺は首をかしげる。すると、三間はさらに言葉を重ねた。
「……どうして、今更みんなを混乱させるようなことするの…っ!篠がいて、みんなまとまってて、もう十分じゃん!それなのに…みんなを苛立たせることばっかりして……っ!はっきり言って、迷惑なんだよ!」
「――――っ」
栗林と翼以外の、クラスメイトのダイレクトな本音を、初めて聞いた気がした。三間の言葉は時々震えていて、それが怒りのせいなのだと感じると思いの深さを感じる。
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